■ 予定とおしゃべり


「んじゃ、ちっと郵便局まで行ってくるわ」と。書類選考用のESをきっちりと糊づけした封筒を抱え。ソファにだらりと寝そべっている晋助に告げて家を出た。

十分後。

「しししし晋助えええええ!!!」
「おめでとう」
「早ッ!!」
「もう飽きたぜ、そのパターンは」

「ああああどどどどうしよういつにしよう二次選考!!」とスマホを片手に狂喜乱舞。あ、これ明日あたり筋肉痛だと確信しながらもだだっ広く毎日きちんと掃除された塵ひとつ見当たらないフローリングをくるくる回らずにはいられない。この十分間晋助は一ミリたりとも動いていないらしく家を出た時から姿勢がまったく変わっておらず。ただ呆れたようなカオでわたしを見下している。

「とっとと予約しねーと都合つかなくなるんじゃねェのか」
「ああうんそう、そうなんだけど!どの日程も時間が夜なんだよね!」
「基本暇人なんだから構やしねーだろう」
「でも晩ごはん……」
「ああ、それ気にしてんのかよ」
「一応、わたしが作るって約束だし」

無論、夕飯だけでなく朝食からはじまり晋助の気が向いた時の間食やおやつ、あと家の掃除や洗濯など家事一辺等などなど。一応ここに住まわせてもらう条件として取りつけられたものであり、選考で家を空ける日も基本的には作り置きして行っている。けれどさすがに夕飯時を空けるのはこの生活をして初めてである。唇を突き出して唸るわたしを見かねたのか単純にブサイク過ぎて見ていられなかったのか(後者の可能性が全くないと言いきれないのが悲しい)、晋助は面倒くさそうに起き上がり、未だくるくる回っているわたしからスマホをひったくって予約画面をじいと見つめる。

「なに、どうした?」
「……二日にしろ」
「なんで?あ、お告げ?神のお告げ?」
「……どれだけ馬鹿なんだてめーは。神なんてこの世にいるわけねーだろう。ただのシックスセンスだ」
「あ、観てくれたんだあれ。ど?なかなかおもしろかったでしょー」
「で。手前の心残りは何だ?」
「ウソ!そんなやばい顔してる!?今!?」

……とかおふざけはとにかくとして。
なんでも「ちいと野暮用でな。その日はメシはいらねーんだ」なんだとか。首を傾げているうちにスマホを放り投げられ、いつの間にやら予約完了の画面に変わっていたためどうやら決定事項として処理されてしまったようなのでとりあえず選考は五月二日の夜に決まった。

それにしても。
絶賛謹慎中(自宅待機中)(ニート中)の別に不良仲間や友人が訪ねて来ることも未だにない中二病の男に、一体どんな野暮用があるというのだろう。

「…………」
「なんだ、そんなに俺が気になるかい」

……まあ、どうせロクでもない用事なんだろうけどな!


「斉藤さんって、アクティブだよねぇ」
「え、なにが?」
「もうほとんど東京暮らしなんでしょう?その行動力がすごいし、人と話すのも得意そうだし。私なんて地元でしかそもそも探してないよ」
「地元が東京ってのがいいよねー。東京入れるだけで企業数大幅に増えるんだもん、勤務地絞ってらんないよぉ」
「ここで決まるといいよねー……十二月から就活して、なんかそろそろ疲れてきた」
「精神的にクるよね、色々」
「斉藤さん何社ぐらい受けてるの?」
「んっとー。今のところ三十?くらい……」
「うわすっご!」
「エントリー入れたら七十前後かな」
「頑張るねー……私やばいかも」
「でも、重要なのは勝率だからね。わたしグループ面接ダメ」
「私もダメ」
「ワークとかディスカッションは割といけるんだけどなぁ」
「あと私、筆記試験ダメ」
「わかる。この業界、オリジナルの問題多すぎだよね」
「聞いて聞いて!この前さあ、SP会社の筆記試験でね――」
「うわ、ヒドイ!こっちはさぁ、一般常識受かったと思ったら二次試験が――」
「なにそれ!そんなの知らないよねー!あとあと、こんな問題もあったよ。なんでも――」
「げ、ヒッサーン!それって九割ぐらい落としにかかってるよね絶対!――」
「――――」
「――――」

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