ベリオ | ナノ




  結局は五十倍の上機嫌


「…………はぁああぁああ!?」

と。
折原臨也は吠えた。

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「うっせ……」と耳を塞いでいる梢の両腕を力ずくで外し、ついでにスケッチブックの絵を確認している顔と向かい合わせると、臨也は「今何て言った?」眉間に皺を寄せ、目を細めて言う。

「あん?ぁに睨んでんだ。喧嘩売ってんのか、こら」
「俺に梢を傷付ける趣味はないよ。っていうか先に質問に答えて」
「だーかーら。静雄とダチになったっつったんだよ」

肩にかけられていた臨也の手を払って外し、再び視線をスケッチブックに。明日使用する材料の確認をしているらしく、ケーキの絵を見ながらメモに食材と分量を書き足していく。

「おかしいだろ!何でシズちゃんと!おかしいだろ!」
「なあ、48ccの50倍っていくらだ?」
「2400……って聞いてる!?」
「どーどー」

「落ち着けよ」と梢に諭される臨也はさほど珍しいものではないが、しかし梢以外の人間がその姿を見ることは出来ない。梢は臨也のカオを見ないまま馬を宥めるような声をかけて作業を続ける。それでもスケッチブックから顔を上げる気配がないので、諦めたのか臨也は大きく息を吐き、大人しく用意された椅子(営業中、暇な時用に置いたものだがあまり使われない)に腰を下ろした。

「250gの50倍は?」
「…………」

そのかわり、
拗ねることにしたようだが。

「おい、聞いてんのか」
「…………」
「シカトすんな」
「……」
「あ、避けやがった」
「……ふん」

日頃散々臨也の餌食になっている葵あたりがこの様子を見れば、さぞかし目を丸くするだろう。──が、しかし梢は二人きりの時仕様の、この若干素直な臨也を気に入っていたりするのだ。眉を寄せ、不機嫌そうに口をへの字にしたままそっぽを向いてしまった臨也を横目で見、そしてくっくっと喉で笑った。「……何がおかしいのさ」チラリと目だけこちらを向く臨也に、梢は

「拗ねてんじゃねえよ」
「──別に、拗ねてなんか」
「……確かにお前は気持ち悪いヤツだけどよ、それでもあたしはお前のこと、結構気に入ってんだ」
「…………は?」
「特にこういう分かりやすい時のお前は、だーい好きだよ」

にんまりと、楽しげな笑みと共に放たれた言葉に、一瞬目の前が霞む。「で、250gの50倍は?」そう続けた梢に、「12.5kg」と返すことしか出来なかった。

「──お前、何言ったんだ?いやに上機嫌で帰ってったけど」
「だーかーら、お姉様と呼べっつってんだろーが」
「あの人が俺に突っ掛からずに帰るなんてありえねぇ……!何かの前触れじゃねーだろーな」
「そーか?あいつも結構可愛いトコあると思うけど」
「あの人相手にんなこと言えるのって姉貴だけだと思う……」
「ほら。明日の仕込みすんだろ?ちゃっちゃと手を動かせ。あたしも明日のケーキ試作しなきゃなんねーんだから」






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