実はあったという話(セブルスとミリア)



あの輝かしいクィディッチ杯からしばらく過ぎて。ミリアちゃんが《プリーズ》を修得して以来──

「ミリアちゃんが不登校になりました」
「…………」

セブセブは沈黙した。
まあねえ。
え、なんでって感じだけど。
わたしだってそう思うけど。

「……会話したからか?ルーピンと」
「本人はそう申しておりますが」

…………。

『私は誓いを破ってしまった』
『…………』
『行かない』
『…………』

むすっとして、それっきりだんまりを決め込んだミリアちゃん。どうやらすっかりチョコを食べ終えてから、事の重大さに気が付いたらしかった。いや、重大かどうかは本人の考え次第なので、わたしは何も言いませんが。つーか《プリーズ》は会話なのだろうか。

「──てゆうか、むしろ拗ねてるみたいだったよ」
「子供か」
「子供だよ」
「小さな子供か」
「そうみたいね」

実際ミリアちゃんは授業にも出ずにというか部屋からまるで出ずに、一日中わたしの部屋の本を読みあさっている始末だった。なまじ彼女の部屋に生活品が揃えるだけ揃ってあるだけに、ミリアちゃんもわたしも引きこもりを発動させたからといって別に、困りはしないのだった。ちゃんとご飯作ってくれてるし。

「反転してセブセブ、ミリアちゃんがヒッキーで困っちゃうのはきみだよねえセブセブ」
「セブセブって二度も言うな!」
「だって嫌味だもんさ。ミリアちゃんみてーな可愛い女の子に、引きこもりまでさせちゃって。男として最低だとは思わないのかい?」
「思わん」
「まあね。ミリアちゃんの勝手だし」
「……お前は何が言いたいんだ」

げんなりとしたセブセブの言うことはもっともなのだけれど、『なに、愛するミリアがヒッキーにっ!?魔法薬学の授業なんてぽーいっ、今すぐ迎えに行こうぞ!』とか、もしかしたら言ってくれるかもしれないとか期待していたわたしの思いを返せ!と言いたかった。

「いや、『行こうぞ!』は可笑しいかな」
「は?」
「いやいや」

こっちの話。
こっちだけの話。

「とにもかくにもセブセブくん。ミリアちゃんとお話してあげなさい」
「どうして僕が」
「恋する女の子には薬になんだよ」

そう言ってやるとセブセブは顔を赤らめてなんだかんだうだうだと唸っている。うわあ、こっちは恋する男の子かよ。シリウスとは逆ベクトルに向いてはいるが。ちなみにシリウスはわたしたちがこそこそと会話している様を、悔しそうに妬ましそうに睨んでいた(セブセブを)。ハンカチを噛もうとしてさすがに止められていた。馬鹿だ。

「──話をするにしたって、ミリアは部屋から出て来ないのだろう」
「うん」
「うん?」
「うん。ミリアちゃんが行けないんだったら、セブセブが来ればいい」
「何処に」
「グリフィンドール寮。あーんど、女子寮」
「…………」
「にしし」
「…………」

みるみるうちに真っ赤っ赤。
可愛いよなあ、こいつら。

「な、何を考えているんだ貴様は!む、無理だ!不可能だ!決まっているだろうが!」

このチェリーカップルめ!
わたしの心配を返せよ!

「……グリフィンドールの女子寮に入るなど、普通に考えて許可が貰えるわけがないに決まっているだろう」
「真っ面目だねー。許可なんて期待してないよ。だから忍び込むんだよ」
「忍っ、!」

叫びかけたセブセブの口をふさいだ。
本当まじめくんだなあ。
ミリアちゃんはこういうのが好みなのか。
からかいがいはあるけどもさ。
わたしにはよくわからなかった。


「方法そのいーち。普通に入る」階段を登って、とある貴婦人の肖像画の前に並んで立った。セブセブと手を繋いで。セブセブはゆでダコ状態だった。貴婦人の前で、いつかやっと教えてもらった合言葉を言う。スリザリンのセブセブの前だけれど、セブセブなら悪用はしないだろう。関わろうともしないだろうから。普通に入口が現れた。おお。

「セブセブーん。はーいろ」
「…………」
「セブセブーん。照れんな」
「…………」
「セブセブーん?泣くなよ」
「貴様の血は何色だ!」
「真っ赤っ赤。今のきみみたいだよ」

セブセブは真っ赤っ赤だった。
今のセブセブの格好。
ネクタイを外し。
長めの髪はウィッグで隠し。
簡素な顔にはメイキャップ。
ちゃんと手を繋いで。
仕上げにスカートを履く。
黒髪美人の完成だ。

「ふふん、さすがわたし」
「さすがじゃない!」
「だって、こうでもしないとスリザリン生、こん中入らんねーべ」
「だからといってこんな、女装など…!」
「かわいーかわいー」

照れるセブセブを引きずって入ろうとした。直前に入口が消えた。「あり?」見るとふくよかな貴婦人はにっこりと笑って、「スリザリン生は無理よ」と言った。「あ」「あ」日本語で話すべきだった。


「方法そのに。透明マント」

正面突破法が破壊されたので女装を解いたセブセブと、お次はと廊下で騒いでいたジェームズを呼び出す。一緒にいたらしいシリウスが「あっ!」と嫌な顔をした。……ああ、まだ手、繋いだままだったなあ。セブセブをギラギラとした目で睨み付けるシリウスはセブセブに任せて、ジェームズに用件を話した。

「うーん。千智のお願いは尽力尽せる限りにおいて、叶えてあげたい気は満々なんだけどね。そこのスニベリーも何かしら関わっているようだし、残念ながらお断りだよ」

にっこりと重圧のかかる笑みで言われた。
セブセブはすごく嫌われているんだなあ。
そんなわけで、透明マントは駄目。
まあ予想通りだったけど。

「仕方ないなあ……えっと、透明マントも不可能ともなると、あとは千智ちゃんお得意の空間移動でもするしかないよね」
「始めからそうしろ!」
「うんごめん。都合良く忘れてた」
「……軽く苛めてないか?」

「──というか、できるのか、空間移動……」がっくりとうなだれるセブセブ。うーん、この年にしてそのポーズが様になっているとなると、ちょっとやばいものがあるぞ、セブセブ。

「んー……時限というか次元というか──やっぱ空間かな。例えば今この場所から、ミリアちゃんの部屋まで、ばばーんとね」
「……無茶苦茶だな」
「日本にも行けるよん」

まあ、滅多な事じゃなきゃまず使ったりはしないのだけれども、そんなこと言ってらんねーわけですしね。

「そいではそれでは、ミリアちゃんズ・ルームメントにれっつごー!いえい!」
「…………」
「じゃあ頑張ってきてね」
「は?」
「セブセブと二人きりにさせてくれ、とのお達しだからねえ」
「言いつけられていたのか!」

ミリアちゃんが部屋から出ないのならばセブセブが行けばいい。確かにその通りだけれど、ミリアちゃんは頑固な上にわがままなので、引きこもっていたいプラス、セブセブにも会いたいと豪語してしまうような女の子なのだ。恋する女の子。

とか言っているうちにセブセブは消えた。
ばいばーい。
今夜は大広間に食べに行こう。
遅くなっても帰りません。

「あら?千智、そんな廊下で何をしているの?」
「やあリリー。今日も変わらず美しいね」
「いやだ、千智ったら」
「いやなに、ちょっと、セブセブと遊んでいてね」
「姿が見えないけれど」
「うん、もう寮行ったから」
「そう。……今日はやけにスネイプと一緒ね。シリウスは特にご立腹だったわよ」
「ああ、そういえばガン見してたなあ」
「ラザニアは一度も見かけなかったけど」
「ああ、そういえばミリアちゃんは自室に引きこもってるよう」
「引きこもりっ!?」
「──ま、明日になれば出てくるよ」

あそこベッドルームあるし。
首を傾げたリリーもチェリーだった。
多分通じるのってシリウスと……あとはリーマスくらいだろうか。
ああ、みんなウブだなあ。


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