限られた邂逅(ステラ)



「───へーえ。それで貴方はシリウス・ブラックにクリスマスパーティーに出席すると言い切ってしまったわけね」
「………ステラちゃん」
「何かしら」
「君さあ、回を追う毎にあつかましくなってないかな?プライベートまで聞き出す仲にまでなった覚えはないよ」
「あら。私達、もうお友達じゃない」

げんなりと肩を落とすわたしを、やっぱりいつものようにくすくすと可愛らしい笑みを浮かべて見つめるステラちゃん。可愛いけど。可愛いけどね!

「千智、私の事、好き?」
「嫌い」
「まあ、もう薬の効果が切れてしまったわ」
「………お友達に《暴き薬》飲ませるなんて、酷いじゃないのん」
「お友達の間に隠し事は無しだと思わない?」
「友達だからって、全てが全てを話す必要なんて無いって、わたしは思うよ」
「その気持ちは汲んだつもりよ」
「……………」
「一番肝心なことは、聞かなかったでしょう」

「大切な事は、直接心に聞くわ」
とステラちゃん。彼女の言ったのを踏まえると、それはこれから、一番の肝な部品を問われるということで、自然と身構えてしまう。ふわふわと軽いカールを浮かべる薄い色素の髪を上手に遊ばせて、ステラちゃんはたっぷりと間を空けた後、にっこりと笑った。

「────で。シリウス・ブラックとは何処までいったのかしら?」
「結局恋バナじゃねえかよ!」

人の恋路に興味深々なステラちゃんだった。いつしかの前言を撤回しよう。彼女は間違いなくスリザリンです。ああ、こういう所はミリアちゃんとはやっぱり正反対だなあ。あの子は他人の恋には興味がない。

「キスはしたの?何味?バード・オア・ディープ?もしかして最後まで?」
「……………げんなり」
「ふふ。恋人繋ぎ止まりって処ね」

なら代わってみろと言いたい。
なんでこんなことまで聞かれなきゃならんのだ。ホグワーツは自由恋愛の筈だろう!こんなマイナーな人間の色恋話に付き合っている暇があれば、ステラちゃんはルーン文字の勉強でもするべきだ。

「あらやだ、今や学校中の注目のマトよ?ホグワーツの、純血家のプリンスの初恋」
「わたし関係ねー……」
「そうでもないわよ、千智。貴方、もしかして分かってて言ってるの?そうやって、いつも」
「…………上等手段なんだよ、ね」

ふと気が付くとステラちゃんはこちらを向いておらず、本に視線を落としていた。それは日本の絵本だったと思う、一匹の動物と一匹の動物、彼等が種族も理性も、狩食者と被る者という関係すら超越してしまうという、確かそんな話だった筈。
「この話は好きだわ。夢を見られるもの」ふっと影を落としたステラちゃんは、慈しむように、指先でそっと、挿絵を撫ぜた。

「子供向けの話だからね」
「どんな物語も、本来はこうあるべきなのよ。だってこんなの、所詮は空想なのだから」
「《夢の中でだけは幸せを》ってやつ?」
「そんなところ。現実にはこんな現象は有り得ないものね。肉食動物は他を喰らうわ」
「     」
「私もいつか、家が決めた相手と、家の為に結婚するのよ。夢なんてないわ」
「嫌なの?」

「誰だって嫌よ。けれど、それが当然」眉を寄せて、笑う姿が、うつむいているせいでよく見えなかったけれど、多分彼女はまた、あの子を思い浮かべているのだろう。少し嫌悪の情を笑みに乗せた。わたしの視線に気が付いたのか、顔を上げると、持っていた絵本を手渡された。

「………あの子ならきっとそんなもの、《くだらない》って、そう言って笑うのよ。そして蹴散らしてしまうんだわ、けれど」
「けれど?」
「私には無理。私は、あの子みたいに──選ばれた存在なんかじゃ、ない」
「…………ステラちゃん?」

行き過ぎた言葉は、ステラちゃんらしくもなく焦りが混じっていたように感じた。何かを訴えかけるようにして縋り付く視線は迷っているかのように反らされて、やがて彼女は「何でもない」と首を振るのだ。

否定する事で許されたような、
そんな幻想だけを抱いて。

コドモノセカイ


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