「えっと……。で、つまり?」 「きみの弟はやっぱりツンデレの性質があるということさ」 シリウスと手を繋いで廊下を歩く。あれからすぐにシリウスがやって来て、あの妙な廊下から脱出することが出来、『本当に来たよコイツ……』とでも言いたげなカオを一瞬したものの、シリウスがいるこの場ではもう怒ることも拗ねることもしたくないとでも言うように無表情になって「それでは千智さん」と片手を上げて行ってしまったレギュくん。シリウスがその態度に憤慨して、ついでにレギュくんと軽くお茶会をしていたことにも嫉妬してしまったので愛おしさを覚えながらも話の内容をかいつまんで教えてやったのである。むろん、怒りを鎮めるために抱き着いて頬にキスをして、それからすっかり機嫌の良くなった彼に赤くなった頬をからかわれてからのことであるが。 「つまり、アイツは自分のことを好きでもないだろうヤツに付き纏われ絡まれ嫌っているくせにそいつのことがずっと気になりつつ3年を過ごし、我慢出来なくなって話を持ち掛けたものの、そいつとは友達でもなければ好きでも何でもないと豪語していたってことか」 「うん。で、わたしが思ったのは、つまりレギュくんはその子と、友達になりたいんじゃないかなあって」 「は?……アイツの言うことも理解出来ねえけど、オレにはそっちもワケわかんねえな」 シリウスは犬のように唸った。眉間にシワを寄せて、悩むように上を見て唸る姿もかっこいくて見惚れるけれど、わたしの言ったことをわからないと言いながらも理解しようとする姿勢の方にキュンときて、繋いだ手に少し力を込める。最近、シリウスのどんなところにもときめいてしまって、心臓がうるさくなっていけない。 「二人とも、基本的に友達を必要としないタイプの人間だからね。それでいてよく笑うしそれなりに人付き合いもいい。だから、お互いに当たり障りなく同級生としての関係を保つ分には、なんの支障も出ないはずなんだよね。本来は」 「あ、そっか。レギュラスはそいつのことが、ムカついてムカついて仕方ない」 「うん。好きの反対は無関心。これって結構真理だと思うんだ。これでいくと、シリウス達とセブセブがいがみ合っているのも、何かしらツンデレ的な意味があるのかもしれないな」 「それはねーよ!!」 「わたしがいなかった時、シリウスはセブセブを殺しかけたってミリアちゃんが言ってた。何でそんなに憎んでるワケ?」 確か満月の夜、リーマスに殺させかけたんだっけか。ミリアちゃんはとっても怒っていたし、当時はシリウス、ミリアちゃんのこともまたとても冷たい目で見ていたという。リリーはジェームズを見直したとも言っていた。 「……別に。オレらがスネイプ嫌いなのは、いつものことだろ」 「でもジェームズは助けたって」 「……っだーもー!今オレんことはいーの!オレがバカだった!もーあんなコトしねえ!これでいーだろ!」 「こらシリウス。謝ればそれでいいってもんでもないでしょ?大体セブセブに誠意をもって謝ったことあるの?」 「出来るワケねえだろ!」 「シリウス。め」 「…………。もっかいそれやって」 「うん?めっ!」 「……可愛い!」 ──なんてイチャイチャを繰り返し、グリフィンドール寮に帰るとステラちゃんが笑顔でお出迎えしてくれた。ピーターとリリーもいて、三人で呪文学の課題に取り掛かっていたらしい。ピーターが心なしか顔を青くしているあたり、リリーにしごかれていたらしい。けれどピーターよ、ステラちゃんという癒しが存在するだけ、まだマシじゃないかとか何とか思いつつ、課題なんてまだ提出まで5日もあるのにオメーかったりーよやってらんねーよ派のわたしとシリウスは3人の座っているところから微妙に離れたソファに腰を落ち着ける。「でもよー」と、シリウスが先の話題に繋げたのは、彼が勇気を奮い起こしてリーマスの鞄からこっそり持って来たらしいとっておきのチョコレートを唇に人差し指をあてて『しーっ』をしながらわたしに手渡した後のことである。 「千智がレギュラスのことを気にするのはわかっけど、それってスリザリン内でやってることだろ?オレらにゃーどーしよーもねーじゃんかよ」 「なんか言い方がおざなりだねー」 「妬いてますが何か」 「……んもう!可愛いんだから」 つまりこの人は自分の弟にもヤキモチを妬いているわけだ。まあいつものことながら愛おしいヤツである。「まあ、シリウスのヤキモチは置いとくとして」渡されたチョコレートの包み紙をとって、小さなチョコレートを口に放り込む。この小さな小さなチョコレートはその入手の困難さとその後襲い掛かるだろう恐怖と絶望から、この世のどんなチョコレートよりも価値のあるものだといつかわたしが力説していたのを覚えていてくれた愛も加味されて、すごく甘い。いや、まあそんなことを力説したのはノリと冗談なのだけれど。毎晩チョコレートの数をきっちり数えてから眠っているリーマスからチョコレートを奪うのは、精神的にとてもキツイものがあっただろう。そして間違いなく今晩それに気付くだろうリーマスの報復は、とても恐ろしいものだろうに。そう考えると、もうこれは世界でたったひとつのチョコレートと呼ぶに相応しくも思えてくる。飲み込んで、恍惚の混じった息を吐いた。 「わたしにとっちゃーどっちも可愛い後輩なんだからさ。力になりたいと思うのは当然のことじゃないか」 「力になるっつったって、どうやってなるってんだ?それにレギュラスはツンデレか何だか知らないけど、そいつのことを嫌ってるわけだろ。本人が素直に『僕恋をしてるんです!手伝って下さいお兄様!』って言って来たんなら、話は別だけどよ」 「シリウス実は頼られたかったの……?っていうか、恋じゃないってば」 「だって相手は女だろ?千智は友達って言ってるけどさあ、恋なんじゃね?」 「シリウス……じゃあきみとステラちゃん、リリーの関係は何なのさ」 「んー……いや、でもなあ……」 「レギュくんはミューちゃんと、ちゃんと友達になりたいんじゃないかな」 多分ね、と付け加えて言う。ブラック家としてのレギュくんばかり見てきたお兄ちゃんからすると、やっぱり信じられないことなのかもしれないけれど。「だってレギュくん、恋する目はしてなかったから」ダテにわたしだって、色々な事情で様々な恋をする友人を見て来てはいない。じゃあとりあえずミリアちゃんに話を聞きに行こうかと立ち上がる。は?何でアイツ?と首を傾げるシリウスに、わたしは笑った。 「あの子はすっごい頭悪いけど、実はそこまで救いようのないバカだってわけじゃあないんだよね」 |