「いやあ、みんな、お疲れお疲れ」 ぐったりとソファに沈むマイ・フレンズ達に苦笑して、トレイに乗せたホットココアをテーブルに置く。せっかく入れたのに、冷めてしまうのは残念だけれど、久しぶりにあちこち走り回ったせいで疲れてしまったものは仕方がない。暖炉の火は相変わらずパチパチと音を立てていて、その一番近くで背もたれの上に倒れているリーマスの背中に触れると熱であったかかった。その上に毛布をバサリとかけて、近くで丸まっているピーターにも毛布を。ジェームズから眼鏡をとってテーブルに避難させて、夢の世界でもリリーを求めて手をゆらゆらさせる彼には顔面からかぶせた。シリウスは足を組んだまま眠っていて、その綺麗な寝顔に胸が裂けそうになる。その頬にキスをした。 「熱々ね」 「あ。ステラちゃん」 「リリーには毛布をかけておいたわ」 「ありがと。ステラちゃんは、眠くないの?」 「私はお昼寝をしてから来たから」 「……さようで」 本当はセブセブとミリアちゃんを含めた全員で『悪戯グッズお試しパーティー』したかったのだけれど、彼と彼女は一秒でも多く二人きりでいたいというのが本当のところなのだろう。「いじめられるから」とミリアちゃんが慎まずに辞退してしまったことを残念に思いつつ、けど二人して会いに来てくれたのは嬉しかったり。と静かに笑うと、ステラちゃんがひとつマグカップを手にとり、口をつけた。ふうふう、と冷ます様子がやけにスローモーションに見えて、わたしも眠いのかもしれない、と思った。「あと10分ほどでニューイヤーだわ」ステラちゃんが、ぽつりと言った。掛け時計を見上げている。わたしは頷いた。 「そうだね。リーマスが言うに、年が変わったらダンブルドアとミネちゃんが戻ってくるんだとか。屋敷しもべも、あと先生達も、帰れるようになるみたい」 「二人きりは、堪能した?」 「それはもう」 堪能、というよりは、あの言い様のない静かで深い時間の中にどっぷりと沈んでしまった、と表現すれば近しいのかもしれない。あの時間は、あの空気は、あの温もりは、わたしがずっと、怖がっていたものだ。あれらは『毒』なのだと──ずっと恐れていたものだ。 『私達、家族みたいですね』 もう十年は前のことになるが、わたしを拾った女の子は微笑みながらそんなことを言ってわたしを恐がらせた。カイだって頬を赤らめて。わたしはそれを聞かなかったことにしたし、見なかったことにした。だからあの日、わたしは泣くことさえせずに、冷たい土の中へあの子を埋めたのだ。 「あれからだね。カイが、わたししか見なくなったのは。本当の意味で無視されるのを怖がるようになったのは」 「捨てられたくなくて?」 「多分ね。親がいない。愛が渇いた。冷たい環境。わたしたちは、人間では無かったから」 「人間も、動物よ?そして動物は獣」 「──うん」 今では、どちらも似たようなもの、というか、同じことなのだと気付いたけれど。これまでは、随分とその違いにこだわっていたような気がする。静かに澄んだ心でそう考えて、ココアを一口含む。ステラちゃんみたいに優雅には映っていないだろうけれど、それだって前よりはマシになった筈だ。 「今は違うよ。シリウスといると……何も考えられなくなる。今、この時のことしか」 「それは良かったと思うけれど?」 「うん。──うん。だから正直、また賑やかになったのは嬉しいけどもっとシリウスと、二人でいたい」 「それならそれは、そう遠くない未来に叶うかもしれないわ」 「え?」 「将来の話よ」 ステラちゃんが、寝入っているリリーの隣からスッと立ち上がり、わたしの前に屈む。わたしの手をとり、薬指の付け根を撫ぜた。あ。左、だ。 「千智は一年以上時差ボケがあるから気付き難いかもしれないけど。私達、夏には7年生になるのよ?」 「……7年生」 「そろそろ卒業後のことを考えなくちゃいけない頃だわ」 「…………」 卒業か。卒業。馴染むのが怖くて、溶け込むのが嫌であちこちを転々としていたわたしにとっては生まれて初めての経験だった。魔法界に残って就職先を探すか、マグル界へと帰るか。まずはこのどちらかというところだけれど、正直なところわたしには「こうしたい」といった答はない。ただ、わたしは、ミリアちゃんやステラちゃん、ジェームズやリリー、リーマスやピーターやセブセブなんかと、こうして、時々でもいいから会いたいだけだ。いつもシリウスと一緒にいたいだけだ。 「わたしはそれが許されるなら、シリウスについて行くと思うよ」 「許されるなら?あなた、まだそんなことを言っているの?」 「……じゃ、訂正。わたし、シリウスと結婚したい。ていうかする。で、幸せーな生活を送るんだよ」 「そ」 しかし結局のところどうなのだろう。魔法界の情勢がどうなっているか、わたしはさっぱりわからない。クリスマスでなくてもダンブルドアがしょっちゅう城を留守にしていることは知っているけれど、カイともあんまり会ってないし、会ったとしてもそういうことは教えてくれなさそうだし。それに、知りたいとは思わなかったし。ぶつぶつと呟いているわたしにステラちゃんはたおやかに笑む。大丈夫だ、と、前向きな言葉を投げかける。 「最近は、割と社会も明るくなっているわ。案外そのうち、何も心配なくなっちゃったりしてね」 「まっさかあ」 「きっと大丈夫よ。ダンブルドアも騎士団もいるし、カイだって」 「ステラちゃん、何できみはそんなにカイを頼りに出来るのかな。あいつちょー気まぐれだよ?気が向いた時にしか手を貸さないヤツだよ」 「……兄の心、妹知らず。といった感じかしら。英語で言うと」 「はい?」 「カイだって人間よ?成長だってする。千智みたいに、考え方も変わるわ。生きていればね」 カイも変わったわ。と満足そうな顔でココアを飲み干したステラちゃん。ずいぶんとカイに詳しいじゃないかまさかもしかして!と言いかけたところで笑顔を向けられた。目が笑っていなかった。ごめんなさいすみません、と平伏してから、わたしは消えかけた暖炉に火を戻す。 「私には兄弟がいないから。カイはお兄さんみたいなものだわ」 「何だ、兄弟かよ」 「千智がカイに対してあまりにもお粗末だったから、いっそ私が千智の座を乗っ取ろうと思った時期もあったわ」 「…………え」 「懐かしい」 …………。 あったんだ。 「そ、それはとにかく、ステラちゃんはどうすんの?卒業したら」 「私はマグル界に住もうかと」 「そうなの?」 「ずっと興味があったもの」 「へー……。シリウスはやっぱ魔法界に残るよね。ジェームズもいるし」 「ジェームズの将来なんてものは、一つしか存在しないものね」 「リリーと」 「結婚」 ぷっ、と笑う声。どこまでも高く、天を想像させる石の塔の夜は酷く静かで、騒ぎ獅子達は眠り地下の蛇は冷たい夜に身を震わせることをしない。パチパチと炎の音がする中、わたしとステラちゃんが限りなく小さく幼い声で笑った時、真っ赤な壁紙で等間隔に並んでいた金色の獅子達はいっせいに動き出し、踊るように駆ける。絵画の中の騎士達は勇み、外から貴婦人の高らかな歌声が澄み渡る。その声のあまりのボリュームに飛び起きた5人の友人にまた笑い、わたし達はとびっきりの明るい声で目を醒まさせる。 「ハッピーニューイヤー!」 皆よりも一足お先に、我らのダンブルドアが帰ってきた!ということで新年が少々過ぎてしまったがおめでとう!のご挨拶をしに校長室へ行ったわたし達を待っていたのは、なんと任命書。それによると、休暇明けに帰って来る生徒達を出迎える飾り付けをして貰いたいとのこと。わたしとステラちゃんとリリーはすぐさま寮へと引き返すとシリウス達の部屋へ駆け込み、「やめてー!」叫び声など気にも止めず、男子達のベッドの下や鞄の中や引き出しの中や棚の上などに転がっている悪戯道具を全て引っ張り出し、「わーん!リリーの追いはぎー!」押収した。そしてそれからベッドに放ってあったジェームズのローブのポケットに手を突っ込んで忍びの地図を掴み出すと、隻眼の魔女の像の元へと走り出した。「千智ー!これは愛の追いかけっこだな!?」「何だと!よしリリー!抱きしめてあげる!」そんなキャッチミー・イフユーキャンな状態で魔女の像の小道を通ってホグズミード村へと辿り着いたわたし達女子は瞬時にアイコンタクトをすると散り散りになる。当然のようにわたしを追いかけてきたシリウスと一緒にペディポップスの悪い冗談装飾店まで走り、大量に買い込んで再び空中に大きな紙袋をたくさん浮かせているみんなと合流して城へと戻った。そしてそのまま入り口から道具や魔法で飾りつけていく。大広間までの道のりが派手に飾り立てられると、あとは大きな道から順々に作業にかかる。 「いよっしゃー!」 「いっそげいそげー!」 「次は2階の廊下だ!」 「まどろっこしーな、飛ぼ!」 「道具足りなーい!」 「誰か買ってきてー!」 「じゃんけんじゃんけん!」 「よっしゃ最初はパーやでー!」 …………。 ……………………。 何でコイツもいる。 「何でってつれないマイシスター!ボクはいっつも可愛い妹の側におる役やん」 「マイシスター違うし」 「似たようなもんやんか!……うわ、なに、シリウス、めっちゃ睨んでるやん。もしかしてまだ仲直り出来てないん?」 「シリウスは間違いなくあんたに怒ってんだと思うよ」 「え、ボク何かしたぁ?」 しましたかぁ?と思わずイラッとするような語尾上がりのイントネーションで首を傾げるカイに、殺意が湧いた。元はといえばお前が……!ぷるぷると拳を握り、わたしとシリウスが怒りに震えているうちにステラちゃんが今さら存在に気付いたかのように「あら、カイ」と片手を上げて近寄っていく。妹の座を狙うステラちゃんも、カイにとっては大概な妹になりそうなものだけれど。 「あのねカイ。私実は千智の生き別れの姉だったの」 「嘘を公言しないで!」 「千智とカイが実は血の繋がりのない兄妹であり実はお互い一人っ子だったという事実が明らかになった今となってはすぐにばれてしまう嘘ね」 「リリーは何で説明系?」 「私を妹にして?」 「オッケイ!!!」 「きっさまああああ!」 …………。 ……………………。 タンコブだらけになったカイはさておき。すっかり飾りものと悪戯道具で装飾アンド仕掛けをされた城の中に満足したわたし達は、お次は城の外だと言って箒に乗って寮の窓から外に出る。その際にステラちゃんが「私、箒に乗るの苦手で……お兄ちゃん載せて?」と可愛らしくおねだりしていて、「あ。オレも乗られへんねん。リリーちゃんのーせてっ!」「リリーの後ろは僕のものだ!いや、前も右も左も上も下も僕のものさ!」カイの返答とジェームズの応答はとにかく、そうか箒に乗れない女の子はその手が使えるのか……と少し羨んでいたところ、なんとも男前なわたしの恋人がわたしの手を掴んで、シリウスの跨がる箒の柄を握らせた。 「お前はここ」 「……シリウス!」 「千智!」 「はいはいわかったからさっさとしようね馬鹿ども」と今日も素敵な笑顔で拳を握るリーマスに二人でしばらく震えたのちに箒は上昇し、わたしたちは各々でぐるりと城をとり囲むような円の形で停滞する。ふふふ。と楽しそうに笑うジェームズは500メートルほど先に放置している。シリウスが「寒くない?」と振り返ってきたので、わたしは「寒い」と返して、その背中に抱き着いた。ローブを着ているので伝わりにくいが、ほのかな体温をじんわりと感じることが出来る。「千智……」シリウスがわたしの手(シリウスの腹に回している)を上から包み、色っぽい声を発した時、空を切るような、風の音が聞こえたと思ったら、わたし達の箒が一度、大きく揺れた。わ、びっくりした。何事だ、と思っていたらシリウスが「あっ……ぶねー」と、微かに声を震わせる。 「え、なに今の?」 「や、何か飛んできて……」 顔を見合わせていると、それはそれはまことに不思議なことに、3キロメートル先で滞空していてこちらからは米粒ほどの大きさにしか見えないリーマスから、「チッ」と、何か舌打ちのようなものが聞こえてきた、気がした。なるほど、わたし達があまりにもうざかったので、何か身近にあったものでも投げたのだろう。…………。 「まじめにやろう、シリウス」 「オレも今そう思った」 日もすっかり落ちて、星が瞬く夜になったホグワーツ城。ムーンライトやスターリットと厳かで歴史のある巨大な城という組み合わせが、わたしは嫌いではなかった。3年前から時折こうして箒に乗って、森の上空から城に向かっての景色を楽しんでいたし、深夜こっそり天文台に赴きシリウスに2時間ほど、人生初めて抱いたという愛情を打ち明けられていた思い出もある。ところが今夜に限って、ほう、と見とれてしまうような寂寥感と静寂からなるひっそりとして不気味な、蛇みたいな美しさはこちらから窺うことは出来ず、『ほう』となることもなかった。代わりにわたしは、否、わたしとシリウスは、口元に手を当て、必死に笑いを堪えて群集を見下ろしていた。グリフィンドール生、ハッフルパフ生、レイブンクロー生、スリザリン生、関係なく、教師、森番、関係なく、口をぽっかりと開けて目を見開いて立ち止まっている姿を、である。誰も何も言わず、我らが学び舎ホグワーツ城を見上げて絶句していた。わたしとシリウスは顔を見合わせ、それでもやっぱり口から手を離さないまま、空いている片手で親指を突き立て合った。「悪戯」「成功」教師生徒森番の見上げる先にはホグワーツ城。カバード・ウィズ・タージ・マハール。プラス、カイのカイによるカイのための『らぶいずおーるまいんっ!』なデコレーションがなされており、つまり、 「ピンク色……」 「窓枠がハート……」 「真っ白な壁……」 「木の色が……」 「なんでバラ園……?」 「え、ここどこ……?」 「ホグワーツが光ってる……」 「甘い匂いがする……」 「1000年の歴史が……」 「千智・八城とシリウス・ブラック、一体どういう喧嘩をしたんだ……?」 こんな感じである。 真っ先に、ハッと我に返ったらしい流石であるマクゴナガル先生ことミネちゃんが「ハグリッド!ま、前へ通しなさい!」と我先に最前列へと乗り出し、そして再び唖然としたあと、「早く開けるのです!」と急かした。ギイィ、と音を立てて開いた真っピンクのツルツルした扉をくぐっていくミネちゃんとハグリッドと教師陣と生徒達を上空から見届けた後、わたし達は開放されているテラスから城の中に入った。 それからの皆の声のやかましいことといったらもう。落とし穴にはハマるわ花火には仰天するわ魔法の仕掛けにあたふたするわ、自分達が仕掛けたものの、こうもすんなりいちいちトラップにハマってくれる皆の優しさが身に染みた、というのは嘘だけれど、イキイキとトラップの配置を考えていた仕掛け人の4人に、感心してしまった。 「すごいなあ……」 「早く大広間行こうぜ。ジェームズとリリーが待機してるよ」 「……これ皆、着けんのかな?」 「大丈夫だろ。トラップの数より生徒の数のが多いんだし」 「ミネちゃんが真っ先に落とし穴に落ちたのまで、計算通りだったね」 「ふっ。さすがオレ達」 透明マントを被って二人、こそこそと移動する。ギャーギャーと騒がしい人間の中には教師陣の姿がなく、彼ら彼女らは恐らくホグワーツ城の派手な改装についてわたし達を叱り付けようとして真っ先に先頭に立ち早足に歩き出したところをトラップにやられた。ゆえに最初に広間に辿り着けるのは生徒の中で、最も運のいい人間であろう。リーマスとピーターが上からその様子を楽しそうに見ていたのを見上げてから、わたしとシリウスはトラップに引っ掛からないよう移動し、広間には入口から入った。 「ジェームズ」 「あ、シリウスに千智。向こうの様子はどうだい?」 「あと何分かってとこだな」 数分後、「や、やっと着いたぞ……!」息も絶え絶えな声がして、教員席に座って偉ぶり合ってふざけていたわたし達は入口へと目をやる。数名のハッフルパフ生が扉に手をついて息を整えている姿が目についた。やっと来たか、とわたし達も息を吐いて、続いてやって来た生徒達の服がボロボロでセットした頭も乱れて表情が疲れ切っていることを確認する。よしよし。悪戯はそれなりに効果があったみたいだ。 「ハッピーニューイヤー!」 と、途端に鳴り響く何百ものクラッカーは虹色の紙吹雪の中にネズミ花火が空で暴れている。続々と登場する生徒達も目の玉をひんむいて仰天する中、テーブルにはご馳走が現れた。屋敷しもべは安全な経路から既にご到着済みなのである。 「レディース・アンド・ジェントルマン!僕ら悪戯仕掛け人とそのハニー達、プラスおちゃめな教員一名による新年の挨拶はいかがだったかな?」 マイクを握り長々と演説を始めるのは目立ちたがりのジェームズだ。この仕掛けを取り付けるのがどれだけ大変だったかを熱説していると、しばらくしてこっそりとリーマスとピーターが入ってきた。トラップから自力で抜け出せない生徒達を助ける役割でもあった彼らが来たということは、生徒はもう全員着いたらしい。ステラちゃんも、地下に引きこもっていたミリアちゃんとセブセブを連れて静かに群集に紛れる。せっかく愛を語り合っていたところなのにとでも言いたげな彼女と、シリウスが渡した糞爆弾をしっかりと投げ付けたらしいステラちゃんを睨んでいるセブセブはとてもとても不服そうではあったが、まあしかし、そろそろ二人きりの時間は終了せねばなるまい。「実はこの度のドタバタが解決したお祝いにと、校長ダンブルドアが我ら仕掛け人とそのハニー達に、皆さまのお出迎えを盛大にするようにとの仰せがあったので、僕らは時間と場所の許す限り悪戯の限りを尽くそうと頑張ってみたわけですが──ああご安心を先生方!タージ・マハールはもう元の姿に戻りました!」息を切らして辿り着いた教授陣の苦笑や睨みを受けつつヘラヘラと笑顔のジェームズはまだまだまだまだ喋り続ける。ホグワーツの全員が広間に入り、立ちっぱなしで壇上のジェームズを見上げている中、ふと右手を握られる。シリウスは優しい笑みを向けるので、わたしは目を逸らして、その肩に頭を預けた。顔面の熱さと赤みは、今のうちに取っておかなければならないのだから。直視できないわたしを見たらしく、くっくっと笑う声が聞こえてきたのも、まあ憎らしい。 「──さあ、ところでこの度、僕らホグワーツの全員に著しく迷惑をかけた二人組がいることは既に皆さん存じているかと思います。その二人は、ええそれはもう僕たちの生活にとんでもない支障をきたしました。男子も女子も平等に、いや女子の方がちょっとばかり被害が大きく、友達もそうでない者も平行に、生徒も教員も関係なく、この二人の迷惑さにはすっかり呆れ返ってしまったことでしょう。自らの影響力の大きさにちっとも気付かないけしからん二人ですが、この度ようやく再び、以前より強く結ばれることが出来ました。この2年間とは別の意味で、それ以前より更に酷い迷惑をかけることでしょう。さてそんな、どっちに転んでも迷惑極まりない二人から一言、皆さまへ新年の挨拶があるようですので、僕は泣く泣く、一時マイクのスイッチを切ることとします」 そう言って、アイコンタクト。 シリウスともアイコンタクト。 手を繋いだまま壇上に上がり、正面を向く。少し下から、約二千もの視線を受けて、ぎゅっと手の力を強めた。 そして、 どちらからともなく、 頭を下げる。 「お騒がせして!」 「すみませんでしたっ!!」 たっぷり十秒ほど経ってから、ゆっくりと頭を上げる。かなりの人数から、睨まれているような気がしないでもなかったけれど、何人かの人間が、泣いているのが見えたけど、それでも。 たった一つ、から。 パラパラと。 そしてパチパチと。 そうしてやがて。 つんざくような、手を叩く音が耳に響く中、大好きな声で「愛してる」と聞こえたような気がした。だから「わたしの方が愛してる」と返した。恋人というのは、ただそれだけのことなのだと、最近になって気が付いた。 |