ぼふん、と、ソファに飛び込むとわたしの身体は瞬間沈んで浮上した。相変わらず派手な色をしていて、柔らかいことだ。それにほっぺたをつけた状態で、わたしはふと視界の限りに眼球を動かして、この談話室に今度こそ誰もいない無人であることを確認した。 「……みんな、楽しんでんのかなあ」 ぽつりと、呟いた声は意外にも頼りなさげだった。うん、もしかすると淋しいのかもしれない。……10月31日、夜。ハロウィンパーティである。生徒はお祭り騒ぎだし、ゴーストも城内を飛び回っているだろうし、あちらこちらに掛っている絵画達もカタカタと元気よく震えているだろう。教授達も教授達なりに準備を張り切って、毎年、更なるプレゼンテーションに頭を捻らせていることを、わたしたち生徒はよく知っていた。だからこそこの日は、寮監や教授、フィルチや規則なんかを気にせず、目一杯に遊び駆け回ることが出来るパーティなのである。……そんなパーティにわたしが参加しないと言った時、みんなからブーイングが出たことはまことに有り難いことなのだけれど、この場合は致し方ないと言っても過言では、あるまい。……………。 「本当に、よいのか?」 前のラインは両端に大きなフリルが飾ってあって、飾りのベルトを巻き、スカート部分もフリフリである、オレンジピンクのワンピース。その上から、かぼちゃパッチンで留めたオレンジ色マント。ブーツもかぼちゃカラーで、魔女っ子みたいなとんがり帽子の先っちょにもかぼちゃが揺れている。手にはかぼちゃを象ったバスケット。中には大粒のキャンディがぎっちりと詰まっており、そして腕には紅と金のアームウォーマーをしているミリアちゃんは、わたしの不参加にもかかわらずうっきうきで出ていった。その際わたしにくれたキャンディは、かぼちゃかと思いきやオレンジ。勝手に騙された気分になってしまったわたしだった。……………。 「本当に、構わないのかしら?」 ふわっふわの真っ白なうさぎの耳。肩を大きく出した真っ黒なパーティドレスは、ミリアちゃんみたいなフリフリではなくて落ち着いた、大人っぽいフレアになっている。首と腕につけられた紅と金のアクセサリーは、鎖の形をしている。髪の毛はいつもにまして、ふわふわ。まるまるとした尻尾は、耳と同じく白かった。このようにして、完全に何かを履き違えてしまったらしいステラちゃんはわたしの不参加にもかかわらず、萌っえ萌えで出て行った。その際に手渡された自称萌え萌えアイテムを見て、わたしはしばらく固まっていた。……………。 「本当に、いいの?」 燃え上がるような長い髪は耳の上で2つにくくられて、ついでに巻かれていた。鮮やかなグラデーションのグリーンシャツの上から、かぼちゃ色をしたワンピースを着ていた。ただのかぼちゃ色をしたワンピースかとおもいきや、かぼちゃのようにラインが入っていて、胸の下と腰とですっきりと締まっていて、胸のところにはジャック・オ・ランタンのデザイン。アクセサリー代わりにかぼちゃのツタのようなものと紅と金のミサンガで飾ったリリーは、わたしの不参加にもかかわらず、にっこにこで出て行った。その際に頭を撫でられたのは素直に嬉しかったので、それと髪の毛を巻いたリリーは可愛かったので、許してやろうとわたしは思った。 「本当にいいのかい?」 黒い、犬みたいな形をしているがそれにしては大きな獣耳。眼鏡はいつもと変わらないが、ゆったりとした、良く言えば奇抜な、悪く言えばただのボロに一見見える、薄いベージュのトップスは切り刻まれほどけかけている裾が紅と金のベルトからちょっと出ていた。そしてスタイリッシュな、真っ黒いズボンである。肘から下の部位はもさもさっとしている、耳と同じ毛で覆われ、鋭そうに見える爪は魔法でそう見せているだけなので実際は当たっても痛くはないらしい。そしてかっこいい尻尾まで付けて格好つけたオオカミ男ジェームズはわたしの不参加にもかかわらず、ハッツラツとして出て行った。その際に爪の魔法をまだ知らなかったわたしを驚かせていったジェームズはやる気満々だと思った。 「本当に、いいのかな……」 元からふわふわしていた短い金髪の、耳の高さとそれより少しズレた位置から、大きなネジが突き出ている。顔は何か、縫合したように見えるペイントを施してあり、その右側は紫色で塗られていた。紅と金のだぼだぼっとした大きなボーダーシャツを着ていて、七分袖から伸びた腕や、サイズ大きめのジーンズをロールアップした裾から見える足にも、顔と同じ仕様で、それぞれ緑だったり水色だったり、ちっとも怖くなくてむしろ愛されそうなフランケンシュタインの真似っこをしたピーターはわたしの不参加にもかかわらず、いつも通りおっどおどしながら出て行った。その際に顔にペイントをしてあげようかと言われたけれど丁重に断った。フランケンの映画を前に見たことあるけど怖かったからだった。 「まあ、いいよね」 ドラキュラ。吸血鬼。ドラキュラ。そうとしか形容の仕様がない、パッと見人目でそれだとわかるし、ジェームズやミリアちゃんやピーターのようにオシャレに凝っているわけでもなく、至ってシンプルでありオーソドックスな吸血鬼に扮したリーマスは、わたしの何か物足りなそうな顔を見てわたしの両頬を思いきり引き延ばしやがった。「何その不満そうな顔」「いや、なんか地味だなって思って」仮装はパッと見すぐにわかる方が良いだろうし、下手にデザインに凝り過ぎても目立つだけだろうし、リーマスのこの格好は学校行事の仮装としては至って模範的で標準的な仮装であるだろうに、その前までの個性的な格好を目の当たりにしてからはちょっとリーマスの存在が薄く感じられ「牙は作ったんだよね。噛んであげようか」リーマスはリーマスでありリーマスでありリーマスなので、例え仮装が地味であろうが影が薄くなるなんてことは全然ちっともまるっきり感じられず、むしろリーマスの美麗な容姿を引き立たせるためには下手に飾りたてるよりも漆黒のマントを羽織っている方が効果的には違いないとわたしは思い直すことにして、うっるうるの目でリーマスを送り出させて頂きました。 「──というわけで、只今現在進行形でちょう暇で暇で暇な時間を満喫中なわけなんですよ……」 別に誰かがいるわけでなく、生徒はこぞってパーティに参加しているので誰もいない談話室のソファを独り占めし、仰向けに寝転んで、独り言を言ったわたし。淋しい人間だと自分でも思った。ならば今からでもパーティに参加すればいいわけだが、なんとなくそんな気分にはなれない。──パートナーも、いないことだし──。 「……シリウスは、誰と出てんだろ」 夕方からずっとここに居たにもかかわらず顔を見ていないということは、随分早くから出陣してしまったということで、そんなにわたしの顔が見たくなかったのだろうか。……シリウスの仮装、見たかった……。と、しょんぼりしていると、真っ黒くてふわふわしていて長細くてぱたぱた動くものが視界に入って嘆息する。 …………。 「はい、千智、これをつけてね」 麗しい笑顔と共にステラちゃんがわたしに手渡した萌えアイテム。猫の耳と尻尾だった。つけたくなかった。そしてわたしが今身につけているのは、黒い猫の耳と尻尾と、紅と金の大きめボーダーシャツとワンピース。この『紅と金』というのは、グリフィンドール生全員に課せられたルールなので仕方ない、というか好きな色だからいいけど、グリフィンドール生全員と、お揃いだった。仕方なく耳と尻尾をつけてやったはいいものの肝心かなめのステラちゃん、「いいわね千智、萌えるわ」さらっとそんな台詞を残して出かけてしまったので、ステラちゃんだけでなく皆がいなくなってしまった談話室にたったひとりでゴロゴロしているというわけだった。でも本当にやることないな。課題は溜ってないし遊び相手はいないしでつまらん。 「…………、……寝よ」 寝た。 「もう、20年になりますのね」 鮮やかな赤に色付いていた庭園の薔薇がわたしの髪色に合わせて金色へと変化したちょうどそんな時、黒夫人は溜め息のように呟いて、目を伏せた。カチャリ、と静かにティーカップをソーサーへと置いたその仕草が妙に綺麗だと感じたけれど、口には出さず「そうですね」とわたしは呟く。20年。そうだ。夫人が言うように、彼女達にはもう20年の時が振りかかったのだ。 「……サティス・フィクション──ミス、千智・八城。本当によろしいのでしょうか……このような──」 「ヴァルブルガさん」 躊躇いを含んだ声。 わたしはそれを遮った。 たとえあちらはそう呼ぶのが礼儀であろうと、たとえこちらがそう呼ばれるのが暗黙の了解となっていようが、この人には──その名を──出来ることなら、呼んでもらいたくはないのだ。 「その名前で、呼ばないで下さると助かります」 「……それは、申し訳ございません」 「敬語も、止めて下さい。わたしは今、《金色の断罪者》としてではなく《黄昏の罪悪の娘》としてではなく、ただ、あなたの親友の娘として、あなたと向かい合っているつもりです」 「……じゃあ、私はあなたを、どう呼べばいいのかしら?」 「千智──と」 漆黒の女性は── 『黒夫人』の名にはふさわしい。 「ただの千智とお呼び下さい」 わたしは、目一杯に微笑んだ。 「今日は土曜日ですからね。大半はホグズミードへ行っているだろうし、残りの少数だってほとんどは課題に追われています。ここへ来るところを誰に見られたわけでもありませんし、心配いりません。それに、わたしのことを詮索出来る人間なんていませんよ」 「ええ──ええ。そう、ならいいの。それにしても、よくおいでになったわね、千智ちゃん。あの人は外出していて……ちょうど暇を持て余していた処だったから」 「わたしも、あなたにお会いできて嬉しいです、ヴァルブルガさん。あなたとは一度、お話してみたいと思っていましたから」 「嬉しい」 注がれた、透き通ったピンク色の紅茶を一口含むと、ふわりと薔薇が香った。水面にも金の小さなローズピースが浮かんでいて、とても上品な味。リーマスに持って帰ったらさぞお喜びになることだろうが、そんな下世話な真似をするわけにもいくまい。最近見つけたというティーショップで、何か新商品が出ていて、自分で買って帰って来ることを祈ることにしよう。「ところで」と、黒夫人が話し出す。 「『ただの千智・八城』として此処に居るのなら、私は母の義務として、聞かなければならないことが──そうではなくても聞いておきたいことが、一つあるわ、千智ちゃん」 「何でしょう」 「シリウスとは──どうなのかしら?」 「…………」 やはり来たか、この質問。 気になるところではあるのだろう。 想定の範囲内の問いかけに、わたしは大して動揺した素振りも見せず「良好ですよ」と答える。 「良好も良好、何も問題はありません。しいて取り上げるとするのなら、お互いがお互いを愛し合い過ぎて、今は少し火傷を負ってしまったこと位なものですけれど、怪我ならいずれ治ります」 「──それは良かったわ。一時期はあなたが失踪した噂が流れていたから、どうなることかと思っていたのよ」 「それは大変お騒がせしました──ですがまあ、こちらのことは、あれをもってして解決がつきましたから」 「…………ネレ」 黒夫人は、呟く。 いとおしげに、 そして尚、 切なげに呟く。 再びにわたしを見つめる黒夫人は、微かに震えていた。 「……ねえ、千智ちゃん──あなたの言うことだから間違いなんてないでしょうけれど──それでも、勘違いなんて……思い違いだったなんて、ことはないのかしら?だって私には、どうしても思えないのよ、あの子が、あの子が、あの愛しい子が、誰よりも賢く、誰よりも聡く、誰よりも強く、誰よりも美しい、そんなあの子が──」 「間違いありません」 わたしは、きっぱりと言う。まるで何かに縋り付こうとしたような黒夫人の視線を、切った。そして静かに繰り返す。 「わたしの母は、死にました」 「…………っ」 途端に、顔を伏せた。 肘にぶつかったのか、ガチャン、とカップが鳴ったけど、どうやら中身は溢れずに済んだようだ。黒夫人はテーブルクロスを掴んで、かたかたと、今度は目にみえてわかる程に震えている。 「ネレ……ネレ、ネレ、ネレ……」 うわ言のように繰り返す彼女。 向かい合って座るわたしの位置から、顔を伏せている彼女の表情は見えない。──この家の主が不在で、心底良かったと思った。おおよそ3年前ほどに出会った彼なら、心の底から純粋な悲しみに涙を流しているこの人のことを、きっと『はしたない』とでも言うのだろうから。ただ、現在この屋敷にいる唯一の目撃者として、しばらくはこのまま、時の流れを待っていようと思った。あの人を酷く思い出す、キラキラ輝く金色を見つめながら。 そして。 「──ネレは、私の後輩だったわ」 数十分か経ったのち、黒夫人はぽつぽつと語り始めた。赤く充血した瞳を隠すことは、恐らく簡単なことなのだろう。 「私が4年生の頃、あの子はスリザリンへと組分けされた。……あの子の血筋を考えれば当然のことだったけれど、付き合ってみればあの子の性質はどちらかというと、レイブンクロー向きだったのではないかと不思議に思ったわ。それ位に、知識には貪欲だった」 「……まあ、読書はわたしも好きなんですけどね」 「そして、あの子は優秀だった。あの子は秀逸だった。あの子は完璧だった。あの子は美麗だった。あの子は高貴だった。──他のどの寮のどの学年の生徒にも、並んで立つことを憚らせたわ。引けを取らないどころか、私達はただあの子を見上げることしか出来なかった」 「…………」 「全員が全員──憧れた。美しく、強く、賢く──誰もが誰も、憧憬の目で見ずにはいられなかった。完璧な家柄に、完璧な容姿。立入振る舞い……あの子は、私の誇りだった。4つも歳が離れていたけれど──親友だった。あの子と過ごす時間は、まるで幸福そのものだった」 「……母の記憶の中でも、あなたと居る時間は等しくそうだったと思いますよ、ヴァルブルガさん」 「……可愛いあの子。私のものだったのに。私だけのものだったのに。ねえ千智ちゃん、あの子は、行ってしまったのよ。悪魔に心を奪われて、この世から消えてしまったの」 「…………」 「まさか──あんな、マグルの男なんかに、私のあの子を、拐われてしまうなんて。ああ、汚らわしい。憎らしい。おぞましい。あの、憎々しい、マグル────!」 ぶるぶるぶる、と、怒りに、怨みに、恨みに震わせる彼女。ぞくり、と悪寒が走った。……この方の中では、あの人は20年が経過した今でも、これからもずっと、後輩であり、親友であり、愛すべき人なのだろう。 ──なんて激しい、愛情。 思わず、どきりとした。 狂おしいまでの愛情と、 溢れんばかりの憎悪が。 黒夫人にまとわりついていた。 しばらくして。 「……シリウス……」 ぽつり、と、 その名前を出したのはわたしだった。 黒夫人は、ゆらりと顔を上げ、その端正な顔を愛憎に歪ませたまま、わたしのことを見つめる。母親の記憶の宿ったこの身体は、嫌でもそれに反応したけれど──でも今は、そんな場合じゃあない。 「──あなたはシリウスを、シリウス・ブラックのことを、あなたの息子さんのことを、一体どう思っているのですか?」 「…………どう、とは……?」 「ブラック家の長男として産まれ、そのように育って来たにもかかわらず主義に歯向かい、グリフィンドールに入り、そして尚その存在は至上最高であるシリウスのことを、母親として、あるいは『ヴァルブルガ』というただの存在として、シリウスのことをどう思っているのですか?」 「…………」 「答えて──下さい。わたしは今日、本当は、これが聞きたくてここに来たんです。どうか間違っても『黒夫人』としてではなく、シリウスを思ってみて下さい。今、この屋敷に人はいません。屋敷しもべも、この庭園には入れません。今だけはこの金色の薔薇の精霊達も、あなたの美しい声に耳をそば立てることもありません。そしてわたしは誰にも言いません。それはシリウス本人も含めてのことです、ヴァルブルガさん。教えて下さい、ヴァルブルガさん」 「…………」 懇願するようにそっと尋ねてみたのだけれど、黒夫人はしかし、それでも数十分は黙り黙っていたのだと思う。それは仕方のないことだったし、もしこのまま時が過ぎ、結局答えてもらうことが出来なかったとしても、無理に追求はしないでおこうと決めていた。──けれどきっと、この方は。 「────拐って」 絞り出すような声だった。 ふとすれば消えてしまいそうな、風に乗って去ってしまいそうな、そんな危うさを秘めた声だった。 「──どうかあの子を、拐って……」 「────」 「レギュラスは、良いの。私達の教え通り、私達の教育通り、私達の思惑通り、従順で優秀な純血主義に育った。レギュラスならば、ブラック家を継ぐことも、死喰い人になることも、人を殺すことも、あの方に使えることも、出来るのでしょう。そして『そんな風』に育った自分自身に、何の不満も矛盾も感じていない。だから良いの。勝手だとわかっているけれど──私はあの子にブラックの名を継がせます。そのことにもレギュラスに異存はない。むしろそれがあの子の求めるもの。だから、良いの。…………けれど、『あの子』は」 「シリウス」 「──シリウスは──いつか、いなくなる。消えるわ。立ち去るわ。この家から。この血から。この闇から。主人も私もレギュラスをも置いて、『やってられない』とでも言いたげに──家出でもするのでしょう。時間が、狭まっていくのを感じる。あの子が『ブラック家の長男』でいる時間が、短くなっていくのを、私の──ほんの小さな私が、感じているのが、わかるの。シリウスはいつか、私の息子ではなくなる」 「…………」 「その時が来れば……あの子のことを考えている今の私は、その時きっといない。あの子を罵倒することでしょう。レギュラスは蔑視することでしょう。主人は殺しにかかるかもしれないわ。一族の恥じ晒し──と。だから──」 「…………」 「──千智ちゃん。『断罪者』の異名を持つあなたならきっと──その時、あの子を守ってあげられる。あの子が無事に家を捨てるのを、手助けすることが出来る。それであなたは闇から睨まれるのかもしれない。『たぶらかした』と言われるのかもしれない。それはあなたにとって、不名誉なことになるのかもしれない。けれど、けれど、『あなたの母親の親友』としてではなく、『あの子の母親』としての我が侭を許して貰えるのならどうか──あなたにしか、頼めないの……」 シリウスを、拐って。 眉を寄せて、目を細めて。 途切れ途切れの、 不安定な声。 テーブルに両肘をつけ、 組んで、 こつ、と額にあてる。 「今は私の、息子だから」 ああ──なんて── ────母親、じゃないか。 「……わたしは、シリウスに、幸せになって欲しいです。出来ることなら、わたしと共に。そのために力になれることなら、わたしは何だってするつもりですよ」 慰めのような言葉だと自分でも思ったけれど、それは、紛れもないわたしの本心だった。けれど、出来ることならばと抱いた願いは、恐らくは叶えることは出来なかった。 「──どうして、相入れない形でしか、あなた方2人は生きていくことが出来ないんでしょうね、ヴァルブルガさん」 |