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だって、そんな。あれだけ悪戯仕掛けて、あれだけ嫌ってたのに、今更好きだなんて変にも程があるでしょう?だって、しょうがないんだ。あの目が悪いんだ。あの凛々しい目が。さらさらの髪が。優しい声が。全てが嫌でも綺麗と思ってしまうんだ。
俺ついに頭可笑しくなったか。でも俺はもう子供じゃあない。自分の気持ちは嫌でも受け入れる事ができるんだ。好きなら、好きらしくしてやる。

「好きです」

先輩の事が。変ですか?可笑しいですか?そう訊ねると苦笑しかかえって来ない。ああ、言わなきゃよかっ…。ーーそこまでで段々と霧野先輩が遠くなり、ぱっと意識がはっきりとする。

「……また、」

最近いつも同じ夢を見る。俺が、霧野先輩に告白する夢。夢とは寝てる時に身体から抜け出し た魂が実際に経験したこと、普段は抑圧されて意識していない願望などが如実に現れるケースも多いとされる、らしい。他にも色々な説があるらしいが、俺の場合多分後者だ。雷門に転入してきてからずっと言えないでいる。言えない分、好きが積もっていって。それなのに言えない俺はチキンすぎて悲しくなる。だって、怖い。この異常な思いが拒まれた時、もう二度と笑い合えないんじゃないかって。目すらも会わせてくれないんじゃないかって、怖い。だってだって、先輩は俺の中でだれよりも大切で、大好きで。俺はこんなにも見てるのに先輩は俺をちっとも見てくれなくて。こんな報われない恋、しなければよかった、なんて。今更後悔しても仕方がない。

「…好き」

だなんて、誰も居ない空調の機械音が響くこの部屋で独り呟く。直ぐに恥ずかしくなり、目を覚ます為に洗面台に向かった。ぱしゃりと冷水を顔に浴びるも目はなかなか覚めず浮かんで来るのは先輩の事ばかり。いい加減嫌になってはぁと一息付く。直ぐに洗面台を離れ、ヒロトさん手作りの朝御飯を口に押し込みお弁当を手に取ると早々に制服へと着替え早めに家を出る。何時もより早く出たせいか、周りの風景はいつもと違って。自転車で通学するいつもの高校生や、イヤホンを入れて歩く若いサラリーマンの姿が今日はは一つも無い。それどころか、人の姿が一つも無い。そんな寂しい学校までの道のりをトボトボと歩く。いつもより早い学校。まあサッカー部は朝練があるから皆よりは早いんだけど。やはり学校にも人の姿は無くて。校門独り占めしながらサッカー塔まで足を運ぶ。部室も独り占めだと思い豪快に扉を開けた。なのに。部室には人の姿。
え、こんな早い時間から学校に来るやつ居るのかよ、そう思いその人の容姿を目で捉えた。て…、

「わ、…霧野先輩」

そこには制服からユニフォームに着替えた霧野先輩の姿。なんで、あの夢を見たこんな日に。嫌だ、きっと、絶対意識してしまう。

「狩屋か、今日は早いな」

先輩は涼しい顔で言う。後に続けていい心掛けだ、と。ばーか、子供扱いするななんて心の中で悪態を付く。

「っ…先輩こそ、早いですね」

平然平然…。そう何度も唱えるも全然平然じゃなくて。だって好きだから。平然で居られる訳が無い。

「そうか?俺はいつもこの時間だぞ」

先輩は着替え終わったようでぱたりとロッカーを閉める。そうなんですかと適当に相槌打ってればこの人も直ぐに練習に行ってくれるだろう。はやく、はやく行って。落ち着かない。緊張で手が滑る。でも先輩はなかなかグラウンドには出てくれなくて。じいと先輩を見詰めれば視線に気づいたのは青色の瞳がこちらを捉える。

「…?はやく着替えろよ。」
「っ、え……」
「練習、やらないのか?」

ああこの人俺と一緒に練習する気だ。
嬉しいのか嬉しくないのか。ただひとつ言えるのは、この落ち着きの無さも緊張も決して嫌なものではなくて。

「…あ、の」
「ん、何だ?」

ああもう少しでも一緒に居たい。

「…明日から、この時間に来てもいいですか?」

返事は聞かなくても分かってるけどな。

「ああ、勿論だ!」

ほらね、だって

「一緒に練習するのは良いことだからな。チームメイト同士」

この位にしか思われてないから。



(友達の関係からどうしても抜け出せないんだ。思いを拒まれた時もう二度と笑い合えないんじゃないかって)


怖くて。




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