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カーテンの隙間の光と心地良い温かさでふと目が覚めた。体を動かそうとするも自由に身動きが取れない。

何故かって?昨日飼い始めた猫みたいなマサキが俺に引っ付いて寝ているから。心地よい温かさはマサキの子供体温のせい。小さな丸い手は俺の服の裾を掴んでいて。やべえ何だこいつ可愛い。折角気持ち良く寝ているのに起こしちゃまずいかって俺は極力身体を動かさないように枕元にある携帯電話を取った。時計を見るとまだ6時過ぎ。

うわー早く起きすぎたな。でも二度寝しようと思うほど寝足りない訳じゃない。このままマサキを起こしてもいいのだかこんなに気持ち良さそうに寝られるとどうも起こしにくい。苦渋の決断の末、マサキが起きるまでその寝顔を眺めておく事にした。

あれ、こいつ案外睫毛長いな、なんて思いながら見ているとマサキはんんと唸りながら寝返りを打った。あ、服捲れてる…。お腹出して寝てたら腹壊すぞって捲れた服を直そうと手を伸ばした時。白いつやつやの肌に浮き上がる青痣。よく見ればここにも。ここにもって。

「こいつ…、」

思い当たるのは虐待の二文字。親に捨てられ家を無くしちょっとの失敗で過剰反応。そういえば裸足だったな。考えすぎか…?仮に本当だとしても無理に突っ込むのは良くないよな。でもこれから一緒に生活していく上でいずれ知っていかなければいけない事。でも…さすがにまだ早いか。今は見守っておこう。

白い肌に浮き出た青痣をつうと指先でなぞる。くすぐったいのかぴくりと小さく反応する小さな身体が妙に愛おしく思えた。俺の中にあるらしい母性本能が疼いたのが分かる。

一緒に生活してゆくと決めた以上、先輩として、仮にも保護者として守っていなきゃなって。そんな珍しく真面目な事をつらつらと頭に並べていると俺に引っ付いていたマサキがむくりと身体を起こした。

「ん、おはよう」
「んー…きりのさん、おはようございます…」

マサキは手の甲で目をごしごしと擦りながら寝ぼけ眼で挨拶をしてくる。マサキはこの一晩でかなり心を開いてくれた、と思う。家に連れてきたときよりもちゃんと声を出して返事をしてくれるようになったし、霧野さん、とまあ堅苦しくはあるが名前で呼んでくれるようになった。

でもやっぱりまだぎこちないというか、色々な面で遠慮しているというか…。まあまだ24時間も経っていないのに完全に心を開けというのも無理な話だがな。これからだこれから。自分に一つ克を入れると顔洗ってこいとマサキの肩をぽんと押す。マサキははい、と素直に返事をすればベッドから降りて洗面台に向かう。

そのうちにベッドのシーツをたためば今日は何着ていこうかと軽くタンスを漁る。そう今日はマサキの生活用品を一通り揃える為ホームセンターに買い物に行く予定だ。服に下着に歯ブラシ、靴など買うものは沢山ある。お金も仕送りが届いたばっかりだし余裕はある。

俺がお金を出すと言った時はマサキはかなり反対したがマサキの出世払いという事で一応事は収まった。昨日のマサキの慌てっぷりは面白くてきっと忘れない。そのときドアの方で物音がしたので振り返ってみると顔を洗い終えたらしいマサキが戻ってきていた。

「あ…霧野さん、」
「どうした?」
「シーツ…言ってくれたら片付けたのに」

マサキは凄く申し訳無さそうな表情で呟く。本当こいつは色々遠慮しすぎ。そう告げるとでも、あの、ってばっか。そして極めつけにはお世話になってるのに申し訳ないですって。ばあか堅くなりすぎ。一個しか違わないんだからもっと気楽にしろよって。俯くマサキの頭にぽんと手を乗せると今日の服決めとけってだけ告げ俺も洗面台へ向かった。

「どーすっかなぁ…」

鏡の前で寝癖を整えながらぽけーっと呟いてみた。具体的に何をどうするかは自分でも分かっていないけれどマサキの事であると言うのは明確で。

一人で暮らしてきてもう半年になるが誰かと一緒に住むという経験は家族以外には無い。それに家族は世話される立場だったけど今回は世話する立場だ。正直上手くやれるかは分からない。でもそれでも頑張ってみるかと鏡に映る自分に言い聞かせれば洗面台を離れる。

リビングへ入るともう既にマサキが居て。朝どうする?って聞くと少しの沈黙の後に任せます、と。ううん…やっぱ心の距離はまだ遠いか。そう自嘲すれば朝飯の準備に取りかかる。すぐに俺もやりますってマサキが駆け寄ってきた。ああでもやっぱり可愛い。




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