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おうたがじょうず


夏に差し掛かるこの時期は日の出が早い。そのせいなのか普段なら起きることもない時間に目を覚ました。瞬きを何回かしてから左隣に寝てるはずの尾形の体を揺らそうとして腕を伸ばしたが、何の手応えも無くシーツはまだ少し温い。

いつも寝坊助のくせにもう起きたのか珍しいとうっすら明るくなった天井に目をやって、ゆらゆらと揺れるカーテンから風が吹いている。カーテンの揺れる隙間からベランダにいる尾形の後ろ姿が見えたから声をかけようとして、そこから小さく聞こえてくる断片的な音に耳を澄ます。携帯で誰かと話でもしているのかと思っていたが、しばらく聞いているとその小さな音は奴の鼻歌なのだと気付いた。

普段から何を考えているのかよく分からない男が鼻歌なんて歌うのかと意外に思ったし、曲名だとかはさっぱり分からないけどそれは何となく懐かしい気持ちにさせるものだった。

声をかけるのも体を起こすのもやめて布団の中で微睡みながら、明け方の空は薄青く日の出はもうすぐだろう。
小さな小さなその歌を聞いていたら、うつらうつらと自然に瞼が重くなってきた。
瞼の裏では尾形の後ろ姿が浮かんできて、風に乗って聞こえてくる鼻歌と、あちこちで咲き始めたのであろう花の匂いが何とも言えず心地良い。

しばらくすると鼻歌が止んで、ベランダから尾形が部屋の中に入ってきた。私は寝たまま意識をそちらに向ける。近付いてきた尾形が私の頭を撫でる手は優しくて、そのまま唇に柔らかな物が触れた。

「……寝てるのか?」

うんともすんとも返事はしないようにして、緩みそうになる頬を堪えて寝たふりを徹底する。フン、と小さく鼻を鳴らしてベッドの中に入ってきた尾形はそっと私を抱き締めた。
奴にもこんな可愛いところがあったのかと思うとすぐに聞こえてきたのは尾形の寝息。次に起きたらいつもよりたくさん甘やかしてやろうと忍び笑いをして、私からも触れるだけのキスをひとつ。

口ずさむのは先程尾形が奏でていた歌。遠い遠い昔に聞かされた母親の子守唄だろう。


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