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あいたいひと


軍帽を深く被ってボサボサに伸びた髪はあちこちに跳ね上げて、顔に深く刻まれた傷跡を見て息を飲んだ。お互いに言葉は何もかけられずに見つめ合ったのはほんの一瞬で、すぐに男からの荒々しい口付けによって私の思考は一旦そこで止まる。
男は慣れていないのか荒っぽく私の着物の分かれ目に手を入れてきて、その瞬間ビクリと自分の肩が跳ねたのは男の手が冷たかったからだろうか。

「んっ」

私の乳房を弄る指先が先端に触れ、唇が離れてしばし見つめ合う。男の潤んだ目の中に映る自分の姿を見ないように、今度は私から男の首に腕を回して強引に口付けした。


・ ・ ・


私の両親はあまり体が丈夫で無かったから、子供の頃から自分がしっかりしなきゃと肩を張って生きてきた。妹の面倒を見て、床に伏せる事の多かった母の看病をして。物心ついた頃からは母に抱きしめてもらった事も、父に頭を撫でられた事もない。

『お前はお姉ちゃんなんだから』母も父も必ず私にそう言ってきた。
私はそう言われる度に、目に涙を溜めては頬にこぼれぬよう袖で拭った。

弟が生まれたあたりで、母は前にも増しても床に伏せるようになった。ろくに栄養も取れず、薬を買うお金もない。ぐずる妹の頭を撫でながら父が少し家を空けると言って出て行った後に、家に知らない大人たちが訪ねてきた。その大人たちが私の姿を見て何か話し出して、ああ、ついに私は家族のために売られるのだと妙にすんなりと理解した。

人買いが引き取りに来るのは明日の朝すぐ。その前の晩に、幼馴染が私に言った。
『このままここにいちゃいけない、一緒に逃げよう』と。
でも私は『行かない』と言った。私がそう言って、彼は今にも泣き出しそうな顔をしていた。

・ ・ ・


ポタリと雫が私の頬に垂れた。男は私を抱きながら何とも悲痛な声で誰かの名前を呼んでいる。
お互いの弾む呼吸によってその名前は聞き取れそうにないが、わざわざ聞くのも野暮だと思った。
男の泣き出しそうな顔は、別れ際の彼の顔にとてもよく似ている。きっとこの男も、私と同じように私の面影の中にある誰かの顔を思い浮かべている。

顔にも体中にも生々しい傷跡だらけで、彼もこの男のように戦争に行ったのだろうか。今となっては彼は生きてるのか死んでるのかも分からないけれど。

情事が終わると名前も知らない男はさっと身支度を整えて、また来ると言った。今までに色んな客と寝たけれど、この手の客は二度とは来ない事は分かっている。

「……次に来たら、あんたを自由にしてやる」
「…そう」

一時の情に流されるほど初心ではないけれど、男のその言葉にどうしてか泣きそうになるのを私はなんとかこらえていた。



2017.10.27
2018.04.19
お互いに想う相手に似てるっていう話
小樽にいた頃らへん、遊女

引越、加筆修正


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