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ふしぎなおきゃく


※現代にアシリパがトリップ的な話


近所の人から美味しいと評判の食パンをお裾分けで頂いた。パンの耳までフワフワに柔らかくて、とても美味しそう。
ただ、こういう時ってダブったりする事もあって。

(別のパン屋さんで一斤買っちゃったんだよな…)

一人暮らしに二斤は多い。でも折角の頂き物、出来立てが一番美味しいけど冷凍するかなと少し悩んでいた。
今日のお昼はサンドイッチにしよう。さっき用意したレタスと鶏肉を焼いたやつを挟んで、ゆで卵も作ってマヨネーズで和えて挟んでもいいなと色々考えを巡らせていたら、窓の外に見慣れないものが見えた。

「なんだろ?」

台所の窓の外の林はまばらに草が生い茂っている。その奥の方の茂みが揺れて、髪の長い女の子がいるように見えた。
外に出て、その姿を確認する。不思議な格好をした女の子がびっくりした顔をしてこちらを見ていた。

「シンナキサラ!」
「え?なに?」

何て言ったか上手く聞き取れなかった。
まじまじとその子の服装を見ると多分、アイヌの民族衣装だろうか。
資料館だとか教科書でしか見た事のないそれを、今の日本で着ている子供がいるのかと感心してしまった。

「お嬢ちゃんどこから来たの?」

そう聞くとその子は茂みの方を指差した。茂みの先は特に道らしい道も無いはずなのだけど、首を傾げてしまう。

「お父さんかお母さんは?」

さらにそう聞くと悲しそうな顔をして俯いてしまった。悪い事を聞いてしまったのかもしれない。もしかして迷子なのだろうか。
どうしたものかと思い始めたら、急にゴロゴロゴロ〜と雷のような音が響いた。

「…雷?晴れてるのになんで?」

また再びゴロゴロと音がして、それは空からではなく自分の近くから鳴っているのだと気付く。
ふと女の子の方を見ると、気まずそうな顔をしてお腹を抑えていた。

「もしかして、お腹空いてるの?」

その子は目を逸らしたが、代わりに返事をするようにまたコロコロとお腹が鳴った。

「…良かったら、うちで何か食べる?」




食パンにマーガリンを塗る。本当はバターの方が香りもいいんだけど、バターは高いからマーガリン。さっき準備したレタスに塩胡椒を振って焼いた鶏肉を食パンに挟む。お皿で重石をして、次はタマゴサンドを作る。ポテトサラダも作っといてサンドイッチにしたら良かったなぁ、なんて作り終わってから後悔。
さっきの女の子は椅子に座りながら居心地が悪そうに、でも目はずっとサンドイッチを作る私の手元を見ていた。その間ずっとお腹がコロコロ言っていて、つい笑ってしまう。

「はい、どうぞ」

鶏肉とタマゴのサンドイッチを乗せたお皿をその子の前に置いた。パアッと明るい表情になった後、また困ったような顔をしたので首を傾げた。もしかして、こういうものを食べた事ないのかな。

「大丈夫、変なものは入っていないから」

自分のお皿のサンドイッチを口にする。うん、チキンの塩加減がちょうどいいし、パンもしっとりフワフワで評判になるだけの事はある。ちょっとマーガリンの匂いが残念ではあるけど、充分美味しいと思う。
その子もサンドイッチを手に取って、恐る恐る噛り付いた。ゆっくり時間をかけて咀嚼して、ごくんと飲み込む。

「……美味しい」

そう小さい声が聞こえてきて、その後はすごい勢いで食べ進めていく。なんて表情が豊かな子なんだろう、さっきの困った顔と打って変わって今はキラキラとした笑顔でサンドイッチを食べている。くるくると変わる表情が見てて面白い子だ。
あっという間にお皿のサンドイッチを平らげて、お茶を飲んでいる。

「お腹いっぱいになった?」

こくりとうなづく。頬にタマゴがついてるのが見てて微笑ましい。ついてるよ、と教えてあげたら慌てて取ってた。可愛い。

「……」
「もう帰るの?」

その子はソワソワし始めて、席を立った。もう少しこの子の顔を眺めていたかったけど、本当は迷子なんかじゃなく誰かが一緒だったのだろうなと思った。
最初に会った茂みでお見送りをさせてもらう事にする。

「これ、お土産に持って行って」

サンドイッチを渡す。いいの?と申し訳なさそうな顔をしていたけど、たくさんあって困ってたところだからと言うと受け取ってくれた。

「またね、お嬢ちゃん」
「…アシリパ」
「アシリパちゃんって名前なの?」

こくりとうなづく。そこで初めて気付いたのだけど、この子の目の色は青みがかった緑色をしていた。外国人とのハーフなんだろうか。アイヌの格好をして?ハーフ?あまり喋らないのは片言なのか。
手を振って女の子が去るのを見送った。あんな風に茂みを器用に分け入って、慣れているのだろう。一度、アシリパちゃんがこちらを振り向く。

「ありがとう」

そう言ってガサガサと音を立てて、茂みの中へ入って行って姿が見えなくなった。
またアシリパちゃんが出て来ないかな、そう思いながらしゃがんで茂みを見る。当たり前だけど、もうそこから誰かが出てくる事は無かった。


ーーーーー


おまけ。
「アシリパさん、お手洗いにしては長いな…。まさか」
「待たせたな」ガサガサ
「遅かったじゃん、アシリパさん」
「あー!アシリパちゃんそれ何?!」
「知らない人から貰った」
「知らない人から食べ物を貰っちゃいけません!」
「お、なんだこれうめえ!」
「言ってるそばから食ってんじゃないよ白石!」



2016.08.17
2018.04.19
引越、加筆修正


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