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溺れる


日めくりをめくろうとした私の右手を覆い被せるように後ろから手が伸びてきて、節張った手は楽々と私の手を包み込んだ。その手のひやりとした感触の後に首筋に温くて柔らかなものが触れた。ためらいがちに二度、三度と吸い付かれてくすぐったさに身をよじる。

「どうしたの?」

いつの間にやら背中にぴたりとくっついていた杉元の胸に頭を押し付ける。

「別に…、なんとなく」

気恥ずかしそうに顔を横に向けて、杉元の頬は少し赤くなっていた。杉元の両手が私のお腹辺りに寄せられて、私は自分の体を彼の正面にずらす。横を向いていた杉元の顔を両手で私の方に向かせてから、隙ありとばかりに口付ける。
私からは触れるだけの口付けしか出来ない、背伸びをしてやっと杉元の顔に届くからだ。

「……」

私を見下ろす杉元の目が少し、ぎらついた。その目に見つめられると胸がきゅっとする。
背中に回された手に力が込められて、杉元の胸に顔を埋めた。お互いの鼓動が少し早くなる。

「…もっとぎゅってして」
「痛くないか?」
「痛いほうがいいの」

杉元の顔を見上げれば、待ち構えていたかのように唇を奪われた。私からの触れるだけだった口付けから、貪るように咥内を蹂躙される。背骨が軋むくらい力強い抱擁と口付けに呼吸が出来ないほどに。

そんな長い口付けからやっと唇が離れて、息を弾ませながら余裕のない顔で杉元が私を見ていた。このまま進んでいいのか少し迷いが見えて、私は今更止まれないくせにと、杉元の首に両腕を回す。
取って喰われるんじゃないかと思うくらい熱を帯びた目に見つめられたまま、軽々と抱き上げられ布団の上に寝かせてそのまま組み敷かれた。

あぁ、杉元のこの目に見つめられるとぞくぞくする。

あとはもう本能に任せて荒々しく服を脱がされて、その先にある行為に身を任せてしまう。
余裕のない杉元の吐息に、自分が発してるとは思えない甘い声に、溺れていってしまう。


それでも、私は彼と一つになれても、もっともっとと欲しがってしまう。
もっともっと強く、息ができないくらいに強く抱いて、私の全部を投げ出してもいいから。

そんな私の胸のうちを貴方は知ることはなくて、人知れず涙を溢していることは知らないでしょう。

一際高い声が自分から発せられて、潤んだ視界の先にいる杉元にまだ離れたくないとすがりつく。

もっともっと。

もっと、溺れさせて。



2016.08.12
2018.04.10
引越、加筆修正

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