お気になさらず、そのまま。 杉元さんとキスをした。面と向かってお互い緊張しながらゆっくり唇が触れて、ただそれだけなのにすごくドキドキする。小さい頃はよくお母さんとかお父さんとかほっぺにチュッてしてたのと違って、なんで好きな人とだとこんな緊張するんだろう。 「なまえちゃん、かわいい。」 「えええ、それを言ったら杉元さんだって、かわいいし、…かっこいいよ。」 「……よせやぁい。」 あ、杉元さん耳まで赤くなった。私より何個も年上でそれなりに経験もしてるだろうに、本当にこの人はなんて純情なんだろうか。 杉元さんとはバイト先で知り合った。バイトが終わる時間が同じで帰りがいつも遅い時間になるからと家まで送ってくれたのが仲良くなったきっかけだ。いつも他愛もない世間話とか恋話とか色んな話をしていて、面白くて頼もしくてかっこいい。私が杉元さんの事を好きになったのわりとすぐだった。 勇気を出して告白したのも男の人と付き合うのも全部初めてで毎日が楽しくて仕方ない。 そんなこんなで今日は初めて杉元さんの家に遊びに来た日、付き合って初めてのキスをした。 「…照れる、これはやばいです。好きが溢れちゃいます。」 「ふふ、なんでいきなり敬語なの。」 「だって、…!」 急に杉元さんに腕を引き寄せられて強い力で抱きしめられた。突然の事に驚いて心臓がさらにドキドキしてしまうし、がっしりした体格から自分とは違う男の人の体の作りを意識してしまう。 「ごめん。なまえちゃんかわいすぎて我慢出来そうにないかも…。」 耳元で囁くような声がして、初めて聞いた杉元さんの余裕のない声音に少し驚いてしまう。同じ人なのにいつもと違う、でもそれが嫌なわけじゃない。自然と見つめ合って唇が触れてからは貪るみたいに深いキスに変わった。私の両手がしがみつくみたいに杉元さんの背中に回って、それを待っていたみたいにもっともっと深く舌が絡み合う。上擦ってしまう吐息混じりの声、舌先を刺激されるとより一層甲高い声が漏れて恥ずかしいのにこのまま離れて欲しくない。もっともっと欲しくなる、こんな気持ちは初めてだ。 どれくらい経ったのか、ようやく唇が離れてしばらく無言で見つめ合った。でも気恥ずかしさで私の方から先に俯いて、杉元さんがまた耳元で囁く。 「なまえちゃん、好きだよ。」 「……私もです。」 すうっと背中から腰にかけて手で撫ぜられると、こそばゆいのとは違う感覚でびくりと体が跳ねた。熱っぽい目で杉元さんが笑う。 「… なまえちゃん、いいかな?」 私の耳も頬もきっと真っ赤になってるだろう、すごくドキドキして熱っぽい。問いかけに小さくうなづくと杉元さんが優しく唇を喰んで、舌先にまた彼の舌が触れてくる。この後の事も全部初めてだけど不思議な気分だ、キスも彼も何もかも欲しくてたまらない。 少しためらいがちな杉元さんの首に腕を回す。ここまできたらもうお気になさらず、そのまま。 2020.9.6. ぬるい描写です。バイトはきっとレンタルビデオ屋って感じで。 [しおり/もどる] |