続猫の尾形と一緒に暮らす話 その後たっぷり半日くらい寝た後にまた人間の姿に戻ってから百之助は起きた。 「…昼過ぎか」 「…もう夕方に近いけどね…」 結局私はその日外に出ることも出来ず、ただただ百之助を見ているしかなかった。 奴は起きる直前に人間に戻っていたからそこで気付いた。 「あんた…全裸で、寝てたよね…?」 「猫は服を着ないからな」 「ふ、布団を汚された…」 「人聞きの悪いことを言うな、何か着るものはないのか」 「え、着るの?」 「このまま裸で過ごしている方がいいか?」 起き上がろうとしていたので、そのままだと目のやり場に困るから急いで奴でも着れそうなものを探す。クローゼットの中からちょっと大きめのスウェットを出して、そこでまた気付く。 「男物のパンツなんて持ってない…」 「相変わらず男っ気のない生活してるんだな」 「う、うるさい!ちょっと待っててよ、コンビニで下着買ってくるから!」 財布とスマホをひっつかんで部屋から出る。今日の初めての外出が近所のコンビニで、買う物が男物の下着だなんて。 歩いて10分ほどで近くのコンビニについた。入店して適当に下着を選ぼうとしたら、雑誌の売り場に見知った坊主頭がいる。気付かれないように後ろを通り過ぎようとしたら、タイミングよくこちらを振り向いた。 「あっれー、みょうじじゃん?」 「し、白石さん?」 「そいえばみょうじんちってこの辺だっけ?今日休み?飯でも行かない?」 「いや、あの、今日は…」 堂々とエロ本を立ち読みしながら白石がカゴの中を見た。男物の下着が一つカゴに入っている。 「あ、彼氏が泊まりに来てんの?」 「か、彼氏じゃないし!」 「隠すなよ、なんだよ知らない間に上手くやってんだな〜。今度さ彼氏の女の子の友達とか紹介してくれよな!」 合コン合コンとかはしゃいでる白石を尻目に、下着だけ買ってコンビニから出て行く。 あのお喋り野郎のことだから、職場で噂になるだろうな思うと少し頭が痛い。 それ以上にうちには頭の痛い存在がいることを思い出して、盛大にため息をつきながら帰路についたのだった。 「……ただいま」 そういや出て行く時に鍵をかけてくのを忘れていた。でも百之助がいるからいいか、と思ったがそれも防犯的な意味で言ったらどうなんだろうか。 部屋の中に百之助はおらず、浴室の方から水音が聞こえてきた。風呂にでも入っているのだろうか、猫は濡れるのが嫌いなんじゃないのか? 「…ほんとに百之助なのかな?」 一瞬ぞっとした。もしかしたら知らない誰かが入り込んでいる可能性だってある。 浴室のドアが開く音が聞こえて、足音を立てないように慎重に近づいて恐る恐る脱衣所を覗いた。 「…なんだ、覗き見が趣味なのか?」 私がこっそり近付いて行ったのに向こうは気が付いていた様子で、風呂上がりの体を隠す事もせず顔をこちらに向けていた。 そこにいたのが間違いなく百之助だった事と、思いの外体つきが筋肉質でがっしりしているのにびっくりして目を奪われたが、直ぐさま目を逸らした。 「下着!置いとくから!」 買ってきた下着を足元に投げつけた。こんな至近距離で裸を見てしまった事に恥ずかしくなって、顔が熱くなってくる。 百之助の方を見ないように背を向けて浴室から出て行こうとしたが、後ろから急に手を引かれる。手を引かれるまま、百之助に抱き抱えられて密着した背中にじわりと湿り気と熱が伝わってきた。 「…なに、すんの」 百之助の腕が私を拘束する、逞しい腕が振り解こうにもびくともしない。離れようと体を動かしてみても、拘束が解かれず何故か耳朶を甘噛みされた。 「ひっ!ちょ、やめ…」 身をよじって抵抗していたら、急に腕を離されてそのまま床にへたり込んでしまう。 「な、なんなのいきなり?」 「色気の気もないな」 「は?急にこんな事しといて何さ!…てか、パンツはけ!」 どたどたと脱衣所を後にして、一人残された百之助が可笑しくてたまらないと言うように笑い声を上げていた。 あいつめ。 2019.08.05 前サイトから再掲、加筆。 [しおり/もどる] |