小説 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




クリスマスはチキンだろ?


静かな部屋には時計の秒針が動く音しかしない。午後四時を過ぎた窓の外はだんだんと日が暮れて薄暗くなり雪が降っていた。
そんな静かな部屋の中で急にインターフォンの音が鳴り響く。音が鳴り終わる前に再度鳴るが、あいにくと今日は来客の予定はない。またしつこく押される音に嫌な予感を感じながら玄関の扉を開けたら、赤い服にわざとらしい白いヒゲをたくわえた男が立っていた。

「…あの、宗教の勧誘でしたら間に合ってます」
「俺のこの格好を見ろ。12月24日、このワードとこの姿で何の日なのかすぐに分かるだろ」
「竹内まりやのあの歌は我が家では響かないんだよ、何故ならうちにはテレビがないから」
「クリスマスが今年もやってくる〜ってやつか」
「外寒いんだから、その手に持ってる物を置いてさっさと帰って下さい」
「寒いんだからって言われたら家に入れてくれると思うじゃん?!入れてよ!」

玄関先でそんなやりとりをしていたら、入って良いとも言ってないのに赤い服の男は侵入してきて、早速こたつに入ってぬくぬくし始めやがった。

「…なんで白石うちに来るんだよ。彼女とデートでもして来いよ」

さっきまで自分が座っていたこたつにサンタ服の白石と、白石が持ってきたチキンにケーキの箱の赤色がこれでもか!とクリスマスの色を発していて、さっき食べていたみかんの皮が居心悪そうにひしゃげているように見える。

「てかあんた彼女は?10月くらいから仲良くしてた子いたじゃん」
「フ…、そんな過去の事はもう覚えてないぜ」
「別れたのか、早くない?」
「……イブ当日とクリスマスは予定があって会えないって言うから詳しく突っ込んだら彼女の本命は別にいた。散々貢がせといて、プレゼントだけは貰ってあげるって言うんだぜ?」
「うわぁ、お気の毒さまー。相変わらず女見る目ないよね」
「なまえならクリスマスも予定が空いてるだろうと思って」
「刺すぞ、このサンタ野郎」
「すいません」

白石が手際良くうちの台所から皿やらフォークを持って来ると私はバーレルの蓋を開けた。開けた途端にフライドチキンの匂いが部屋の中に広がる。

「ビールある?」
「冷蔵庫に何本か入ってるよ。限定のやつのクラシック」
「お、これ俺まだ飲んだことないやつだ。ラッキー」

乾杯しようぜ、と缶のままのビールを白石が寄越してきて、グラスほど小気味良い音は鳴らない乾杯をしてビールを一口飲んだ。

「あー、まさか今年のクリスマスも白石と過ごすことになろうとは…」

右手で顔を覆いながら俯いている私を無視してチキンを食らう白石。

「去年も似たようなこと言ってたぞ」
「うっさい。友達とか同期から彼氏が出来たとか、婚約したとか、そんな話が聞こえてきたら落ち込みたくもなるわ」

ワンホールケーキを箱から取り出して、切り分けもせずにそのままフォークを入れた。砂糖菓子のサンタの顔が私を哀れんでいるように見えて来るから、余計に切ない。

「あ!せっかく奮発して良いやつ買ってきたのに!そのまんま食うのかよー」
「大きいやつをそのまま食べるのやってみたかったんだよね」
「んもー、俺の分も残しとけよ?」

テレビの無い私の部屋に白石との他愛のない会話だとか、ビールの缶が机に触れる音だとかが響いて、色気も何もあったもんじゃない。さっきから目につくサンタをフォークでつついたら、サンタがバランスを崩して机の上にコロリと落ちた。
拾い上げようとする私の手と白石の手が触れ合う。

「ちょ、白石顔近い」

そのままじっと私を見つめる白石。なんで真顔なんだ。

「なに?」
「なまえさ、見た目も普通に可愛いのに何で去年も今年もクリスマス一人なんだよ」
「うっさい」

サンタの砂糖菓子を頭からかじりついてやった。何だかボケたような甘い味が広がると同時に、白石がニヤついている様な何とも言えないムカつく顔をし始めている。

「その顔やめてよイラっとするから」
「なんでなまえ浮いた話ないの?」
「モテないのよ私。はい、この話おしまい」
「それにしたってイブの夜に男がいきなり押しかけて、素直に部屋に入れちゃうなんて俺心配だなー」
「お前玄関開けたら勝手にずかずか入ってきたじゃんか!」
「…あのさぁ、前から思ってたけど俺たち付き合わない?」
「やめてよ。その余ったもん同士寄せ集めたみたいなの、みじめすぎるわ」
「残り物には福があるって言うじゃん?」
「……サンタの残りあげる。あーんして」
「ぐわー!俺これ嫌い!」

ビールで砂糖菓子を飲み込む白石。私はさっきのやり取りで頬が熱くなるのを感じていて、ありえないと首を振った。
こんな気持ちになるのは世間の浮かれたムードに置いてかれて、ちょっとネガティブになってるからで白石だって本気の訳ない。いつもの冗談だ。

「なー、なまえ」
「なに?」
「また来年も一緒にいような」
「……まじで?」

これが告白だったなんて、遠回しにも程があるわ。

メリークリスマス!


2016.12.27
2018.04.24
以前書いたクリスマスネタ
加筆修正して載っける

まえへ つぎへ


[しおり/もどる]