小説 | ナノ


▼ 寝顔と写真と青い顔

あなたが探偵?私が助手?の短編です。



***



「バイト久しぶりだな〜」


季節はもう秋で、私の制服もベストからブレザーを羽織るくらいには寒くなってきた。



私、清香はバイトへ向かっていた。



高校三年、進路やらなんやらで私はあまりバイトに行けなかったけど、今日は久々の出勤だ。



階段を登り、事務所のドアを開ける。


「お疲れ様でー…あれ?誰もいない?」


しん、とした事務所内、でも鍵掛けてもなかったし、桐谷さんならともかく、向井さんが鍵を閉め忘れてどっか行くなんてしないよね。


「あ」



お客様が来た時用のソファから足が出てる。



なんだ、いたんだ。



「桐谷さん?」



ソファを覗き込む。



わぁー珍しい…寝てるよ…


いや、まぁそりゃ人間だもの。寝るのは当たり前なんだけども、なんというか珍しいのだ。



桐谷さんが事務所で寝るのが。


「疲れてるのかな…」


最近私もバイト来れなかったし、この時期テストとかある筈だし。



ぼーっと考えて、思いついた。



今なら写真、撮れるんじゃ…


ゴクリ、と息を飲む。


普段撮らせてくれはしない写真。しかも寝顔。



ブレザーから携帯を取り出す。


「そーっとそーっと…カメラも無音で…」


こりゃはたから見たら完全に危ない人だ。だがしかしそれでも撮りたかったのだ!



カシャ、と音はしなかったけど画面に映った桐谷さんの寝顔。



わー…撮れた…


つい♪〜と鼻歌混じりになりながら後ろを向く。
バレたら消されるだろうからさっさと鞄にしまってしまおう。


が、つかの間



スッと伸びてきた腕が携帯を掴んだ所に笑顔が固まり青ざめる。



「いい趣味をお持ちで」



寝起きの低い声で、いやいつもの不機嫌そうな低い声で、先程まで寝ていた彼は言った。



「あ、あぁあぁあのー」


振り向いてさらに青ざめる。


「弁論は?」


「ないです…」


「消去」


「あぁーっっっ!!!」


ピッといとも簡単に消去された。
無慈悲…



「いいじゃないですか〜…写真の一枚や二枚…」


返された携帯を握りしめながらジト目で桐谷さんを見る。



「断りもなく人の写真を撮る方が悪い。」


「断ってもOKしてくれたことなんてないじゃないですか!」


「あいにく自分の顔に自信がないもので」


「うっわ嫌味!ただひたすらに嫌味だよ!鏡見るまでもなく自分でわかってるくせに!!」



あれだからね!絶対その顔利用して悪いことしたことあるよ!ひみつ喋らせたり!!


「…全く、そもそもなんでそんなに写真が欲しいんだ。友達とかに見せびらかすタイプじゃないだろうお前は。」


「そりゃ売ったら言い値で売れそうだとは思いましたけど…あ、やべ」


「ほぅ??」


「あっや、ちが、違くて…その、ただ…ただですね…」


「なんだよ」



これを言うのはすごく恥ずかしい気がする。



「えっと、その…」


「早く言え」


急かさないでよ!!


「だから!写真見れば会いたくなったときでも我慢できるかなって!!」


「あ?」


あーもー!恥ずかしい!!


「あ、いや説明させて下さい!だからですね!その、これから私の進路とかで…バイトに来る事減ってくるじゃないですか…そんな時、やっぱりどうしても会いたくなってしまう時もあると思うんです。桐谷さんの事だから会いたくなれば会いにこいとか言いそうですけど!でも会えない事だってあると思うんです…だから、そういう時、写真を見て、頑張ろうって思いたいなーって…そんな写真が欲しいなって…おも、思ったんです、けど……」


言ってて恥ずかしくなってきた。



「だから!写真が欲しかったんです!!わかったかコンチクショー!!」



後半はヤケになった。



「会いたくなれば会いに来ればいい」


「だからそれが出来ない時だって…!」


「お前が来られないなら俺が会いに行けばいい」


へっ?



「まぁ、面倒くさくなければ極力行く」



「その付け足しがなければ格好良かったのに!!」



ざんねんだよ!!残念すぎだよ!!



「まぁ、そういう理由なら写真はとってもいい。」


「えっほんと?」


まさかの展開に思わず声が上ずった。



「じゃあ早速…


「ただし」



腕を引っ張られる。



そのまま桐谷さんの口元が私の耳元に寄せられて吐息と共に声が聞こえた。



「俺もお前の写真がないと我慢出来ない。」


「はっ……


「ま、写真はまた今度な」


ぱっ、と手を離される。



へた、とそのまま私は床についた。



「結局、写真、撮らせてくんないじゃないですか……」



赤いままの顔は暫く戻りそうにないな、と私は思ったのです。




おわり。





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