ss15 封じ込める side:ルカ | ナノ 『好きです』『大好きです』『愛しています』――。
口に出せずに心の内に蓄積され続ける言の葉は、まるで質量をもっているかのようにずっしりと重く、私を押しつぶそうとする。
苦しい――?
いいえ、嬉しい。
あなたへの好きでいっぱいになる自分自身を、私は嫌いになんてなれない。
そして、私は貴女を好きすぎて、吐き出せない気持ちが内側から圧迫して、いつか破裂してしまいそう。


ヒメゴト――――
 side:ルカ


「はじめまして、巡音ルカです」
「はじめまして、ルカ。あたしはMEIKOよ」

私はこの家に来てすぐに、メイコさんにわかりやすい一目惚れをした。
何故と訊かれても答えられないような、ただ一つの感情に私は支配されてしまった。
戸惑いが無かったわけではない。
けれど、どんなに思い悩んでもどうしようもないくらい、貴女に憧れ、惹かれていった。
そして一度、その感情に恋と名付け受け容れてしまえば、止まることなどできなかった。
貴女はどこまでも優しかったので、一時も彼女のそばを離れまいとし、常に触れていたいと感じ、思いの丈を言葉にしようと努力した。

「お姉様、今日も素敵です!」
「ありがとう」

「お姉様、見てください。ベランダのお花が咲いたんですよ! お姉様の美しさには到底かないませんけどね」
「はいはい」

「お姉様、愛しております」
「……」

どんな手段でどれだけ表現しても、熱い想いがすり減ることはなく、むしろ日に日に増していくように感じた。

「お姉様のお髪は日の光に透けるととてもお綺麗ですね。いえ、闇に溶けて濃い茶になる刹那ももちろんお美しいのですが――」
「ねえ、」
私がいつものように貴女の美しさと私の愛の大きさについて語っていたとき、貴女は急にそれを遮った。
「そういうのやめてくれない?」
「そういうの、と言いますと……?」
何を言われてるのか、よりも、今まで聞いたことのない冷たい声と、覚悟を決めたような瞳に驚いた。
少しだけ、怖いと感じた。
「今みたいな、お世辞みたいのとか、スキンシップとか、ちょっと慣れなくて……」
貴女の口から躊躇うようにこぼれるのは、曖昧だけれど確実に拒絶の言葉。
「すみませんでした」
貴女の心に私の言葉は届いていないことを知り、ショックでないはずがないのに頭の中はどこか冷静で、否定されたのは行動であって好意そのものでない、とねじ曲げた解釈を導きだした。
貴女が望むのならば、私は望まれたようにいつまでもこの感情に蓋をして隠し通しましょう。
「ご迷惑でしたら、自重します」
私は上手く笑えていますか?
貴女はそっぽを向いて、言葉を放つ。
「あと、名前で呼んでよ。『お姉様』なんて仰々しい呼び方でなくさ」
「わかりました、『メイコさん』――」
初めて貴女の名を読んで、無駄だとわかっているのに高揚する心を止められない自分がいた。

想いを封じ込めるのは難しいかと思っていたけれど、隠すことが習慣になってさえしまえば、意識することなく接することができた。
離れたら離れたで、さらに彼女の新しい一面を知ることができて、内に降り積もる愛は深まるばかりだった。

「ミク、ルカ、そんなところで何やってんの?」
「お姉ちゃんにはヒ・ミ・ツ! ねー、ルカちゃん?」
「はい。秘密、です」
私が他の家族たちと他愛もない会話をしていると、つられたように貴女が微笑むのを知り、積極的に彼女らと接するようにした。

「メイコさん、洗濯物は取り込んでしまっても大丈夫ですか」
「ああ、ちょうど手が離せなかったの。ありがとう、お願いするわ」
マスターに信頼されている貴女はこの家の家事や雑用を一手に引き受けており、そのやるべき事の多さを知り、率先して手伝いを買ってでた。

私は貴女の隣にいることを諦めた。それでも、貴女を好きでいることまで放棄したわけじゃない。
あくまで『普通』を装い、貴女の日常に溶けていく。

いつだったか貴女は言った。
「ルカは、優しいのね」
貴女は私に笑いかける。
私の優しさなど、ただの下心だということにも気付かずに。
「そうですか?」
貴女が私の好意に気付かないことを望むのならば、私は隠し通してみせましょう。

でも、そろそろ本当に破裂してしまうかもしれませんよ――?
そのときは、責任とってくださいね。

to be concluded.

あとがき→





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