ss14 封じ込める side:メイコ | ナノ 『好きです』『大好きです』『愛しています』――。
簡単に彼女の口から溢れ出る言の葉は、愛をささやくには羽のように軽すぎて、そのくせあたしにとっては鎖のように重すぎる。
嬉しい――?
いいえ、苦しい。
おそらく、額面分の深い意味などないのだろうに、いちいち翻弄される心がそろそろ痛い。気にしないでいようとすればするほど、彼女の言葉であたしは、ほら雁字絡め。


ヒメゴト――――
 side:MEIKO


「はじめまして、巡音ルカです」
「はじめまして、ルカ。あたしはMEIKOよ」

ルカはこの家に来てすぐに、何故かあたしに懐いた。
あたしを見るときだけ、憧れと期待とほんの少しの恥じらいで、キラキラとした瞳をしているのですぐにわかった。
他の誰でもない、あたしに懐いた事が誇らしくて。構えば構うだけ、応えてくれる彼女が純粋に嬉しくて。
あたしは出来るだけ彼女に望まれる理想像のままでいようとした。
そのうち彼女は、いつでもあたしの隣をちょっと遅れて歩き、すぐに手を握ったり、しょっちゅう目を見て恥ずかしい台詞を言ってのけるようになった。

「お姉様、今日も素敵です!」
「ありがとう」

「お姉様、ベランダのお花が咲いたんですよ。お姉様の美しさには到底かないませんけどね」
「はいはい」

「お姉様、愛しております」
「……」

けれどしばらくして、彼女の行き過ぎた言動が、あたしには荷が重すぎるように感じた。

「お姉様の御髪は日の光に透けるととてもお綺麗ですね。いえ、闇に溶けて濃い茶になる刹那ももちろんお美しいのですが――」
「ねぇ、」
彼女がいつものようにあたしには似合わない美辞麗句を並べはじめた時、あたしは思い切って話を切り出した。
「そういうのやめてくれない?」
「そういうの、と言いますと……?」
彼女は何を言われてるのか全くわからない、といった様子で、目を丸くしてこちらを見つめている。
少しだけ、申し訳ないと思った。
「今みたいなお世辞みたいのとか、スキンシップとか、ちょっと慣れなくて……」
すぐに彼女は察したのか、顔を伏せた。細い声が返ってくる。
「すみませんでした」
傷付けてしまったのかと焦ったが、それは杞憂だったようで、顔を上げた彼女は薄い微笑をたたえていた。
「ご迷惑でしたら、自重します」
その微笑みにチクリと心が傷んだ。
あたしは慌ててその表情から目を逸らし、言葉を継ぐ。
「あと、名前で呼んでよ。『お姉様』なんて仰々しい呼び方でなくさ」
「わかりました、『メイコさん』――」
初めて彼女に名を呼ばれて、何故か安心している自分がいた。


それからは、今までが何だったのかと拍子抜けするくらいに、過剰なスキンシップも愛の告白もピタリとなくなった。
すっきりはしたが、むしろ、言われれば全部なかったかのように振る舞えるくらいの気持ちだったのかと、落胆している自分に驚いた。
きっとバイリンガルで帰国子女設定なんかがある新型の彼女は、他人との距離が上手く計れていなかっただけだったんじゃないかと思うことにして、以前のことは努めて忘れようとした。

「ミク、ルカ、そんなところで何やってんの?」
「お姉ちゃんにはヒ・ミ・ツ! ねー、ルカちゃん?」
「はい。秘密、です」
四六時中あたしにくっついて歩くこともなくなったので、前より他の子たちともうまくやれているみたいだ。
特に同室のミクとは仲がいいようで、2人で歳相応の笑みを交わしているのを幾度も見かけた。
良い変化、だと思う。

「メイコさん、洗濯物は取り込んでしまっても大丈夫ですか」
「ああ、ちょうど手が離せなかったの。ありがとう、お願いするわ」
率先して家事や雑用の手伝いを買ってでてくれるし、料理なんか教えたら教えた以上に上達するし、本当によく気の利く良い子。
ただ、責任感が強いのか、すぐ無理をしてしまうのは悪い癖だ。

いつだったか、あたしはそんな彼女を労うために声をかけた。
「ルカは、優しいのね」
彼女はちょっとびっくりした顔をしたけど、すぐにいつもの微笑に戻って、
「そうですか?」
と首をかしげた。
そう、優しい。彼女は。どこまでも。

そうよ、あなたが変わらず優しいからいけないんだわ。その優しさに、以前寄せてくれていた好意を探してしまう。
あたしの心をここまで乱した責任、とってよね。

to be continued.

あとがき→





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