ss13 重ねて融ける | ナノ


弾んだ息も落ち着いた頃、互いに腕を回して脚をからめて、一糸まとわぬしっとりと濡れた肌と鼓動を重ねたまま抱き合っていれば、そのまま一つに融け合ってしまいそうだ。
窓から差し込む街明かり以外の光源がない室内は暗く、くっつきそうな程近くにある顔だけがやっと見えるくらい。
その至近距離の唇から甘い言葉が紡がれる。
「綺麗だね、メイコ」
唐突に何を言いだすのだ、この人は。
顔が熱くなるのがわかる。
「それに、かわいい」
そのまま、くしゃり、と髪をかき混ぜられた。
「そういう風に“造られている”んだから、当たり前じゃない」
憎まれ口を叩いてみたけど、ますますあたしは恥ずかしくなり、じっと見つめる視線から逃げるようにその胸に横顔を付けた。
トクトクと、安心するリズムを感じる。
「んー、そうなんだけどさー……」
すす、と頭を撫でていた手が輪郭を確かめるようにあたしの背中をすべる。
「VOCALOIDを設計した人は、綺麗なものが、美しいものが、かわいらしいものが、そして本当にVOCALOIDが好きだったんだろうね」
背中を一周した手を頭に戻して、パーフェクトボディ、と貴女は笑う。
――完璧?
果たして本当にそうかしら? 熱く語って興奮したのか少し速くなった鼓動。流れるモノはあたしのとは全く別のモノなのに。
「でも、だからこそ、傷つけたりよからぬことに使い棄てる輩がいることは、悲しいことだし、許せないよね」
独り言のようにポツリと呟く。
「よからぬこと? ……ああ、そうね」
もともと、その“よからぬこと”のために造られたあたしたちとは別種のものもあるけれど、そういうのもまとめて貴女は悲しんでくれるのね。悲しめない“彼女たち”の分も。
「でも、それなら……、歌わせない自分も同類、かなぁ」
何かを諦めたような弱々しい苦笑が漏れる。
ここからではその表情は伺えないけれど、どんな顔をしているのか手に取るようにわかる。
貴女にはそんな顔してほしくないわ。
だって貴女は、あたしを傷付けたり棄てたりしないでしょう? そうだと言ってよ。
あたしは腰に置いていた手を首に回し、思いきり伸びをして貴女の耳元に口を寄せる。
「でも、愛し合うことはとても素晴らしいことよ」
そうだね、とふっと力を抜いた貴女の声で、あたしも安堵する。
貴女が求めるならば、あたしにはそれだけ“意味”が与えられる。
とてもじゃないけど完璧ではないあたしに足りないものは、きっと貴女がもっているのね。
あたしは回した腕に力をこめた。
「ん? どうしたの」
なんでもない、とだけ答えたあたしは、このまま抱き合って融けてしまったら完璧になれるかしら? そんなことばかり考えていた。

fin.

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