ss10 胡蝶の夢 | ナノ 胡蝶の夢


ゆるゆると瞼を持ち上げると、見慣れたフローリングがすぐそばに見えた。
愛しい人の暖かな腕のなかにいたはずなのに、何故かしら、自分は冷たい床に頬をつけて転がっている。
その膝を貸してくれて、赤い爪が綺麗なその手で髪を梳いてくすくすと笑っていた彼女はいったいどこに行ってしまったのだ。
いまだ冴えない頭で考える。

――ああ、夢か。

気付いてしまえばくだらない。
なんだ。そうか、夢か。
覚めてしまえば、シャボン玉がパチンとはじけるように、自分を楽しませていたキラキラした光は消え失せ、影も形も見当たらない。
夢。あれは、夢。
理性が現実を受けとめると、偽物の優しさに喜んでいた感情はあっという間に流されてしまう。
もう記憶も朧気で、その輪郭を思い出すのもままならない。
自分の着ている真っ赤なシャツが虚しい。
クーラーの冷気が溜まる床の上、身を包むその赤を自分の身体ごと抱きしめ、きっと風邪を引くだろう、そう頭の隅でわかってはいてももう一度眠りに落ちようとするのをもう止めることはできない。
先刻の夢の続きを見るために。





「また、マスター床で寝てるよー」
「もう、しょうがないわね……。リン、毛布持ってきてくれる?」
「はーい」
「ホントに、どうしてそんなに寒そうに震えてるのに、嬉しそうな顔して寝てんのよ。起こしていいのかわからないじゃない……」

fin.

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