ss9 永遠に届かない | ナノ


「で、お姉ちゃんっていくつなの?」
夕飯の後、いつものようにリビングのソファの定位置にみんながそれぞれ座ってだらだらしていると、話になんの脈絡もなくミクが口を開いた。
「公式設定は“ない”のよ?」
「それは知ってるけどさー」
「自分でもわかんないもん訊かれてもねー」
メイコさんは眉間にしわを寄せて考え込んでいるが、答えが“ない”のではどうしようもない。
次に口を開いたのはリン。
「そういえば、マスターは何歳?」
「へ、自分?」
話が振られると思っていなかったのか、キョトンとしている。
うちのマスターは自らの個人情報についてとことん秘密主義なので、年齢だって私たちは知らない。
視線が謎多きマスターに集まる。
迷いに迷って出した答えは、
「う〜ん…………、天才?」
ずるり、とコントよろしくこけるミクとリン。
「オヤジギャグはいいから」
と、レンに冷たくツッコミをいれられても、めげずにザーサイだとか葛飾北斎だとか、ぶつぶつ呟いている。
そして、何か閃いた顔をして、
「ああ、じゃ、永遠の18歳ってことで」
と、話を無理矢理まとめてしまった。
「お、それいいわねー」
メイコさんがそれに賛同し、意気投合した二人は若さについて語りはじめた。
「女子高生しちゃう?」
「学生カバンに白いワイシャツに、ミニスカート! 女子大生もアリじゃない?」
「キャンパスでデビュー? いいわねっ!」
「ダ、ダメです!」
ガタン、と急な音に驚いたら、それは自分が立ち上がったときに椅子がたてた音だった。
他の皆の視線が痛い。
「え、と……」
「?」
「それじゃあ、ダメです。私のほうが、年上になってしまいます……」
「……ルカお姉様?」
マスターが真顔で聞き返してくる。
それにメイコさんが吹き出した。
「ル、ルカがお姉様ぁ?」
「うん、お姉様お姉様。ね、ルカお姉様」
そう私に呼び掛けると、マスターも吹き出してしまい、しまいにはメイコさんと二人でお腹を抱えて笑い転げている。
「や、やめてください。そんな、私が年長者なんて畏れ多い……」「大丈夫だって。ほら、“アレ”がいるし」
メイコさんが指差したのは、いましがた、涼しそうな水色のアイスキャンディーをくわえてキッチンから出てきたカイトさん。
「カイト〜、何歳?」
「?」
アイスをくわえたまま首をかしげる。
「え、と。カイトは、自分があたしより年上だと思ってる? 年下だと思ってる?」
カイトさんは、特に意識したことはないしめーちゃんはめーちゃんだと思うけど、と前置きして、
「年上だと思ってたよ。シリーズとして俺の方が後輩だし」
「でも、リンとレンの後のルカのケースもあるわよ? ここに来たのは同時なんだし」
メイコさんは楽しそうに食い下がる。
「ん……。めーちゃんと比べたらまだまだ俺も青いかなー、って」
「遠回しに、あたしが精神的に老けてるっていいたいの……?」
メイコさんがカイトさんを追い掛け回している。
「お姉ちゃん、ルカちゃんより年下だったらお酒飲めないじゃん」
ミクがそう言ったのをメイコさんは聞き逃さなかったようで、
「ルカごめん! さっきのなし! 忘れて! お酒が飲めないあたしなんてあたしじゃないわっ!!」
すごい剣幕で私に迫ってきた。
気にしないでください、と笑って取り合わなかった私だけど、心の中に小さなトゲが刺さって抜けなかった。



夜中、私は隣のベッドで寝息をたてているミクを起こさないように、そっと自室を抜け出した。
静かな廊下に出て、メイコさんの部屋のドアの前に立つ。
「……メイコさん」
「開いてるわよ」
寝ていると悪いので小さな声で呼び掛けると、すぐに返事が聞こえた。ほっとして、ドアをそっと押し開ける。
ベッドサイドのライトだけ点けて、何か読み物をしていたようだ。顔をあげて、口の形だけで「どうしたの?」と微笑む。
私はふらふらと近づいて、力なくメイコさんの元に倒れこんだ。
「あら、今日はずいぶん甘えてくれるのね」
「メイコさんは、ずるいです」
こんなに近くにいるのに、なんだかとても遠い。
「ずるい、です」
そして、とてもとても優しい。
メイコさんの手が私の髪を梳く。
「なーに?」
そんな顔で先を促されては、ただの弱音のようで言いたくなかったのに、ぽつり、ぽつりと思っていることが口からこぼれ出てしまう。
年齢も身長も経験も、何一つ適わない。
成長しないVOCALOIDという身体が恨めしい。
追い付けない。
今、こうやって愚痴を聞いてもらってることだって、私に逆はできない。
「ルカ、そんなこと考えてたの?」
「はい……」
「馬鹿ねえ」
そう言って困ったように優しく笑った。
「あたしはここにいるわよ?」
そして、その一言でなにもかもがどうでも良くなった。


fin.



「今日、ここで寝てもいいですか?」
「いいけど、寝るだけ?」
「……っ!」
「あはは、顔真っ赤」
「もう、メイコさんには本当に、敵いません」
「ずーっと敵わなくていいわよー。その間、ルカのかわいい顔が見れるんでしょう?」
「…………」


あとがき→





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