ss2 (小ネタ・サラダ) | ナノ
昼時。日本各地のテレビからは、誰でも一度は聴いたことのあるだろう音楽が高らかに流れだす。
『今日の4分クッキングのメニューは――』
「こ・れ・だ!」
そして、一人の女が立ち上がった。
あたし色の食卓
「なにー? 大声出して。新しい曲のネタでも浮かんだ?」
あまりの大声に、キッチンで軽く昼食の準備をしていたあたしは居間のマスターの様子を見に行く事にする。そして、テレビに釘付けなマスターの背中を見つけた。放送中なのは某有名料理番組で。
「なになに、タコとネギのサラダ〜柑橘のドレッシング仕立て〜……?」
「完璧でしょ!? あ、今忙しいから声かけないでねっ! ふむふむ、タコ250gを……塩少々……」
振り向きもせず、せっせと視線を手元とテレビの間を往復させている。いつにもなく熱心だ。
「メモってずいぶんアナログな方法ね。録画するとか、大事なところだけ携帯で写メるとか、あとでネットで調べるとか、方法は他にいくらでもあるのに」
メモと鉛筆がマスターの手からすべり落ち、一瞬の沈黙が訪れる。ギギギと音がしそうな様子で振り向いたマスターの顔は、どこか劇画調だ。
「メイコって天才……?」
「マスターが馬鹿なんだと思うけど」
軽い調子であしらう。いつもの事だから。
「まぁ、いいや。細かいことはネットで調べるとして、タコ茹でてネギ刻んでドレッシングかければ完成だね。簡単、簡単。うん、やっぱ完璧!」
「さっきから完璧って、何が完璧なのよ? サラダだけじゃあ、おかず足りないんじゃない」
ニヤリ、とマスターの口元に角度がつく。こういう顔をする時マスターは決まって変な事を考えている。変な、とは変なとしか言いようがないんだけれど……。
とりあえず、訊いた事をちょっと後悔。
「ネギでたこで柑橘【みかん】ですよ! 美味しそうじゃないですか! 二重の意味で!!」
訂正する。訊いた事をかーなーりー後悔。
てか、レンやカイトを抜きにしたって、それじゃあ……、
「あたしがいないじゃない」
顔にキョトンって書いてあるみたいだけど、本気で忘れてたのねマスター。
「えと、えと、えーと……。そうだ!」
トエトになってたのもつかの間、今度は頭の上に電球が見える気がする。
「ズバリ、メイコで女体盛りを!」
「却下!!」
そして、最悪のタイミングで階段を降りてくる音がする。
「マスターとメイ姉?」
「どうかなさいましたか?」
「何が却下なの〜?」
ネギとタコとみかんが。
「メイコがネギとタコと柑橘のサラダ却下だって〜」
3人に泣き付くマスター。何か恨みのこもった6つの眼差しに睨まれてるのは気のせい、じゃない、と思う。
三人分の食べ物の恨みは正直怖いので、早々に弁解しておく。
「誤解よっ。誰もそのメニューに反対なんかしてないわよ」
「よしっ! お許しが出たから、みんな、今日の晩御飯は女体盛りだっ!!」
「にょっ!?」
「お姉様の!?」
「にょたいもり、……ってなーに?」
「だから、却下!! そこ、想像して赤くならない! そこ、妄想して熱い視線をこっちに送らない! そしてよい子は知らなくていい!」
なんか、もう、すごく疲れた。
この後、収拾がつかなくなりそうだからしょうがなく今日の夕飯はあたしが全部作る事にして、買い物に行こうとしたら何故か廊下で鼻血を出して倒れてるカイトとその横でオロオロするレンを見つけたのは(……聞いてたわね?)関係のない話。
ちなみに、ネギとタコと柑橘ドレッシングのサラダは赤い大皿に盛ることで事なきを得た。
まだ、ルカは諦めてないみたいだけど……。
to be continued...?
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