お知らせ。
日記は、2011年8月より、MEMOに移行しました。新しい更新情報、拍手レス等はそちらをご覧下さい。
pixivに企画で投稿したものを、日記に小ネタとしてUPさせていただきました。
マルチ乙(
一か月ほど放置していまして、さらに、久々の更新が転用ですみません。
こんな、さびしいサイトにも、足を運んでいただいて、拍手をしていただいて、本当にありがたいことだと思います。
日記といえば、レイアウト変えたんですがどうなんですかね。こんぴゅーたーは正直よくわかりません。追記がどっかいっちゃったんですが、まぁ、気にしないでください。
お返事などは次回から、文字色変更でお茶を濁すことにします。
お知らせ。
日記は、2011年8月より、MEMOに移行しました。新しい更新情報、拍手レス等はそちらをご覧下さい。
最初にキスは奪うものだと言いだしたのはだれだったのだろう――?
夕食後、マスターが珍しくあたしの晩酌に付き合うと言い出した。明日も休みだから酔って潰れて寝て過ごしてもいいやとあっけらかんと言い置いて。
そしてテーブルの上はあっという間に酒の山――色とりどりの体を半ばまで減らされたビンがいくつかと、濃縮還元のオレンジジュースと牛乳の紙パックが、どれも開封されて林立している。
カルーアミルク、梅酒ジンジャー、スクリュードライバー、カシスオレンジ、モスコミュール……よくもまぁそんな甘いものばかり飲んで気持ち悪くならないものね。
一方あたしは、1人でせっせと黒霧島の一升瓶を軽くしている。
「ねぇ、キスしていい?」
ソファのすぐ隣にいるマスターが、グラスを握ったまま、あたしの目をまっすぐに見て言う。さっきまで遠く北の満開の桜の話をしていたのに、なんの脈絡もなく。
「なんで?」
あまりにも唐突だったので、思わず反射で聞き返してしまった。
マスターは目を逸らさない、あたしも逸らせない。
真面目な顔をしているけれど、目尻と、黒髪から覗く耳が僅かに紅い。あぁ、酔っているのか。
「嫌ならいいや」
なんでもなかったかのようにマスターは手元のグラスに視線を落とし、底に残っていた氷を口に含んで噛み砕いた。
そして、カタリと音を立ててテーブルにグラスが置かれる。
ふと、その気配が遠ざかる。
一連の言動の真意が掴めず、声をかけることも、ましてや追い掛けることもできなかった。
広いリビングを抜けて、キッチンの冷蔵庫を開けて戻ってきたマスターの手にはゆず酒の曇りガラスの瓶。
ソファにかけると、すぐにその封を開けはじめる。
次から次へと新しいものを開けるのはどうかと思うわ。どうせ自分で全部は飲まないんでしょう。
マスターは無言で淡い黄色を手酌しては、喉を鳴らして飲み干していく。
「マスター、もうそろそろやめておいた方がいいんじゃない?」
キョトンとトロンの間の瞳が、あたしの顔と3分の1ほど残したグラスを間を往復する。
グラスを目の高さまで持ち上げて、首をかしげた。
飲む? と訊いているようだったので、あたしは自分の空のグラスをテーブルに置いて、その飲みかけを受け取ろうとした。
それなのにマスターは、二口分くらいのそれを自分の口に流し込み、あたしの行き先を失った腕を捕まえた。
「マスた……んっ」
柑橘の酸味と甘味とわずかなアルコールの苦味、そして喉を通る冷たさ。
とっさに、こぼさないようにとしか頭がはたらかなくて、その行為の意味を理解したのはすっかり嚥下し終わってからだった。
顔が近い、というより触れたままでいる。口に残る冷たいはずの液体が、頬が、全身が熱い。
マスターは、邪魔だといわんばかりに乱暴にグラスをテーブルに置いて、空けた手で逃げ腰のあたしを抱く。
触れ合う身体の熱さと、唇の冷たさと。感じる全ての情報量は、とっくに許容範囲を越えている。
初恋の味だと言われる可愛い柑橘の香りを乗せて、より強く感じるマスターの味は、神経回路を侵すアルコールよりも強い毒に違いない。
あっという間にマスターの舌が咥内の全てを責めてきて、本当に何もわからなくなる。頬の粘膜に、歯列の上に、あたしの何もできない舌の裏に、マスターの舌は器用に潜りこんで存在感を残す。
それはまさに奪うキス。最初にキスは奪うものだと言いだしたのはだれだったのだろう。言わないで隠しておいた言葉さえあばかれ、吸い取られるようなそんな口付けがここにある。
角度を変えるたびに漏れる熱い吐息さえ暴力的で、あたしは上手く応えることができない。
始まりが突然なら、終わりも突然だった。
あたしが、強く握られて肌が白くなってしまっているほうではなく、空いているほうの腕をマスターの背に回そうとすると、驚いたように逃げられた。もちろん、溶け合うように触れていた唇も離れる。
「ます、たぁ……?」
「ごめん」
驚いた顔のままマスターは、あたしの腰にある腕を引っ込めて、手を解放して。
あっという間に席を立って部屋を出ていってしまった。
背中を目で追っても、自室の方へと廊下に消えたマスターは戻ってくることも振り向くことさえしなかった。
まさしくキスは奪われるもの。
あたしの心は満たされるどころか、小さな虚を孕む。
きっとあの人は奪ったことさえ、明日の朝には忘れてしまっているのかもしれない。
どうか、次があるならば、意味を生むようなキスを、もしくはあの人の全てを奪えるようなキスを、あたしから。
お知らせ。
日記は、2011年8月より、MEMOに移行しました。新しい更新情報、拍手レス等はそちらをご覧下さい。
ちらりと視界の端に桜色が舞った気がして、家計簿から顔を上げるとすぐそばに吸い込まれそうな空色があった。
「メイコさん、あとどれくらいで終わりますか?」
「もう、すぐだと思うけど」
「じゃあ、ここで待ってますね」
ダイニングのラグに足を伸ばして座りローテーブルで作業をするあたしに、ぴったりと寄り添い、期待の色をこれっぽっちも隠そうとしないルカは、まるで待てをくらわされている忠犬のようだ。
尻尾があったら振っているに違いない。
「………………」
「………………」
あたしとルカしかいない居間。
他の家族はそれぞれの部屋にいるだろう。時間的に、ミクあたりはもう寝ているかもしれない。
このだだっ広い空間に、わざわざこんなに近くにいる必要はあるのだろうか。
急かすことも、ちょっかいを出すこともしないルカだけど、こちらとしてはどうにもこうにも落ち着かない。
「ねぇ、ちょっと……」
もう少し離れるように声をかけるために横を向くと、綺麗な青に遮られる視界と柔らかな感触。
「!?」
「……。なんですか?」
ひとの唇をふいうちで奪っておいて、なんですか、はないと思う。
怒っていいのか呆れればいいのか反応に困っていると、ルカは喜色満面の笑みで、もう終わりましたか、と続けた。
忠犬になんて例えるんじゃなかった。待てもできない駄犬だった――。
まだだと言いかけた口を、再度ふさがれる。
手から離れたボールペンがガラステーブルの上をカタカタと転がっていくのを聞いた。
呼吸するすべを奪おうとしているような、長い長い重ねるだけのキス。いつの間にか、腕も背中に回されて。
鼻から息を吸いながら目配せでやめてと伝えてみたつもりだが、瞬きを一度しただけで、ルカの瞳からいたずらっぽい色が消えることはない。
ルカの両肩を押して体を離すと、彼女は名残惜しそうに、少し淋しそうに眉を下げる。
ああ、なんて顔をしてくれるんだ。
この表情は、ずるい。
「すみませんでした。ちゃんと待ってますから」
少し目を伏せて、すまなそうに言葉を紡ぐ。
その台詞も仕草もずるい、本当にずるい。
あたしが、待てなくなる。
あたしは落ちていたペンを拾い上げ、目の前のA6のノートにはさんで――閉じた。
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日記は、2011年8月より、MEMOに移行しました。新しい更新情報、拍手レス等はそちらをご覧下さい。
こうし、ん…?
pixivに企画で投稿したものを、日記に小ネタとしてUPさせていただきました。
マルチ乙(
一か月ほど放置していまして、さらに、久々の更新が転用ですみません。
こんな、さびしいサイトにも、足を運んでいただいて、拍手をしていただいて、本当にありがたいことだと思います。
日記といえば、レイアウト変えたんですがどうなんですかね。こんぴゅーたーは正直よくわかりません。追記がどっかいっちゃったんですが、まぁ、気にしないでください。
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16th.May.2011
16th.May.2011
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【ss】奪うモノ【マスメイ】
最初にキスは奪うものだと言いだしたのはだれだったのだろう――?
夕食後、マスターが珍しくあたしの晩酌に付き合うと言い出した。明日も休みだから酔って潰れて寝て過ごしてもいいやとあっけらかんと言い置いて。
そしてテーブルの上はあっという間に酒の山――色とりどりの体を半ばまで減らされたビンがいくつかと、濃縮還元のオレンジジュースと牛乳の紙パックが、どれも開封されて林立している。
カルーアミルク、梅酒ジンジャー、スクリュードライバー、カシスオレンジ、モスコミュール……よくもまぁそんな甘いものばかり飲んで気持ち悪くならないものね。
一方あたしは、1人でせっせと黒霧島の一升瓶を軽くしている。
「ねぇ、キスしていい?」
ソファのすぐ隣にいるマスターが、グラスを握ったまま、あたしの目をまっすぐに見て言う。さっきまで遠く北の満開の桜の話をしていたのに、なんの脈絡もなく。
「なんで?」
あまりにも唐突だったので、思わず反射で聞き返してしまった。
マスターは目を逸らさない、あたしも逸らせない。
真面目な顔をしているけれど、目尻と、黒髪から覗く耳が僅かに紅い。あぁ、酔っているのか。
「嫌ならいいや」
なんでもなかったかのようにマスターは手元のグラスに視線を落とし、底に残っていた氷を口に含んで噛み砕いた。
そして、カタリと音を立ててテーブルにグラスが置かれる。
ふと、その気配が遠ざかる。
一連の言動の真意が掴めず、声をかけることも、ましてや追い掛けることもできなかった。
広いリビングを抜けて、キッチンの冷蔵庫を開けて戻ってきたマスターの手にはゆず酒の曇りガラスの瓶。
ソファにかけると、すぐにその封を開けはじめる。
次から次へと新しいものを開けるのはどうかと思うわ。どうせ自分で全部は飲まないんでしょう。
マスターは無言で淡い黄色を手酌しては、喉を鳴らして飲み干していく。
「マスター、もうそろそろやめておいた方がいいんじゃない?」
キョトンとトロンの間の瞳が、あたしの顔と3分の1ほど残したグラスを間を往復する。
グラスを目の高さまで持ち上げて、首をかしげた。
飲む? と訊いているようだったので、あたしは自分の空のグラスをテーブルに置いて、その飲みかけを受け取ろうとした。
それなのにマスターは、二口分くらいのそれを自分の口に流し込み、あたしの行き先を失った腕を捕まえた。
「マスた……んっ」
柑橘の酸味と甘味とわずかなアルコールの苦味、そして喉を通る冷たさ。
とっさに、こぼさないようにとしか頭がはたらかなくて、その行為の意味を理解したのはすっかり嚥下し終わってからだった。
顔が近い、というより触れたままでいる。口に残る冷たいはずの液体が、頬が、全身が熱い。
マスターは、邪魔だといわんばかりに乱暴にグラスをテーブルに置いて、空けた手で逃げ腰のあたしを抱く。
触れ合う身体の熱さと、唇の冷たさと。感じる全ての情報量は、とっくに許容範囲を越えている。
初恋の味だと言われる可愛い柑橘の香りを乗せて、より強く感じるマスターの味は、神経回路を侵すアルコールよりも強い毒に違いない。
あっという間にマスターの舌が咥内の全てを責めてきて、本当に何もわからなくなる。頬の粘膜に、歯列の上に、あたしの何もできない舌の裏に、マスターの舌は器用に潜りこんで存在感を残す。
それはまさに奪うキス。最初にキスは奪うものだと言いだしたのはだれだったのだろう。言わないで隠しておいた言葉さえあばかれ、吸い取られるようなそんな口付けがここにある。
角度を変えるたびに漏れる熱い吐息さえ暴力的で、あたしは上手く応えることができない。
始まりが突然なら、終わりも突然だった。
あたしが、強く握られて肌が白くなってしまっているほうではなく、空いているほうの腕をマスターの背に回そうとすると、驚いたように逃げられた。もちろん、溶け合うように触れていた唇も離れる。
「ます、たぁ……?」
「ごめん」
驚いた顔のままマスターは、あたしの腰にある腕を引っ込めて、手を解放して。
あっという間に席を立って部屋を出ていってしまった。
背中を目で追っても、自室の方へと廊下に消えたマスターは戻ってくることも振り向くことさえしなかった。
まさしくキスは奪われるもの。
あたしの心は満たされるどころか、小さな虚を孕む。
きっとあの人は奪ったことさえ、明日の朝には忘れてしまっているのかもしれない。
どうか、次があるならば、意味を生むようなキスを、もしくはあの人の全てを奪えるようなキスを、あたしから。
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16th.May.2011
16th.May.2011
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【ss】待てのできない犬と
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「メイコさん、あとどれくらいで終わりますか?」
「もう、すぐだと思うけど」
「じゃあ、ここで待ってますね」
ダイニングのラグに足を伸ばして座りローテーブルで作業をするあたしに、ぴったりと寄り添い、期待の色をこれっぽっちも隠そうとしないルカは、まるで待てをくらわされている忠犬のようだ。
尻尾があったら振っているに違いない。
「………………」
「………………」
あたしとルカしかいない居間。
他の家族はそれぞれの部屋にいるだろう。時間的に、ミクあたりはもう寝ているかもしれない。
このだだっ広い空間に、わざわざこんなに近くにいる必要はあるのだろうか。
急かすことも、ちょっかいを出すこともしないルカだけど、こちらとしてはどうにもこうにも落ち着かない。
「ねぇ、ちょっと……」
もう少し離れるように声をかけるために横を向くと、綺麗な青に遮られる視界と柔らかな感触。
「!?」
「……。なんですか?」
ひとの唇をふいうちで奪っておいて、なんですか、はないと思う。
怒っていいのか呆れればいいのか反応に困っていると、ルカは喜色満面の笑みで、もう終わりましたか、と続けた。
忠犬になんて例えるんじゃなかった。待てもできない駄犬だった――。
まだだと言いかけた口を、再度ふさがれる。
手から離れたボールペンがガラステーブルの上をカタカタと転がっていくのを聞いた。
呼吸するすべを奪おうとしているような、長い長い重ねるだけのキス。いつの間にか、腕も背中に回されて。
鼻から息を吸いながら目配せでやめてと伝えてみたつもりだが、瞬きを一度しただけで、ルカの瞳からいたずらっぽい色が消えることはない。
ルカの両肩を押して体を離すと、彼女は名残惜しそうに、少し淋しそうに眉を下げる。
ああ、なんて顔をしてくれるんだ。
この表情は、ずるい。
「すみませんでした。ちゃんと待ってますから」
少し目を伏せて、すまなそうに言葉を紡ぐ。
その台詞も仕草もずるい、本当にずるい。
あたしが、待てなくなる。
あたしは落ちていたペンを拾い上げ、目の前のA6のノートにはさんで――閉じた。
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16th.May.2011
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