Dream | ナノ

ACT.16:虚の華












付き合ってくださいってどこに?





敵に無敵、なんの問題が?






会議も無事に終わり、普通に授業を受け、あっという間に昼休み。

弁当を食べて、会議で出た書類を机から引っ張り出しているとき、声をかけられた。

引き出しにやっていた視線を上げると、一人の男子が立っていた。
クラスメイトたちは、何故か俺に視線をやってくる。「おお」と歓声を上げている奴もいた。

「あ、あの宵町さん。話があるから、ちょっと来てもらっていいかな」
「え?いや俺今から雲雀のとこに行かなきゃいけねぇんだけど…ここでいいなら聞くぜ?」
「え、あの、ここはちょっと…」

ごにょごにょと口ごもる男子。


書類を全部引っ張り出して、暫く待ってもその調子で、痺れを切らして口を開いた。


男ならビシッと言え!
「つ、つつ付き合ってください!」

その言葉に、今度はほとんどの奴の口から「おお」という歓声が上がった。

男子の言葉に、驚きながらも俺も口を開く。








え、どこに?
は?


俺の返答に、間抜けな声を上げる男子。クラスメイトもポカン…と口を開けている。
その様子に疑問に思いながらも、いやだから、と言葉を続けた。

「俺今から雲雀のとこ行くけど、途中まででいいなら多分一緒に行けんぜ?で、どこ行くんだ?」
「え、あ、や、そういう意味じゃなくて…や…やっぱいいや…」

俯いてそういう男子に、「ああそう?」と立ち上がって歩き出す。

教室を出るとき、背後から声をかけられた。


「ね、ねえ!やっぱり雲雀…さんと付き合ってるの?」
「――はあ?雲雀が群れんの嫌いなのはみんな知ってんじゃん。わざわざ俺連れてどっか行くわけねぇだろ」

振り返ってそう言うと、「だからそうじゃなくてー!」と叫ばれた。

意味が判らない。
まあいいやと廊下に出る。



暫く歩いていると、笹川に声をかけられた。

「おお暦!さっき見たら靴箱が凄いことになっていたぞ!」
「……凄いこと?」

おお!と元気よく頷いてからどっかへ行ってしまった。
そのまま応接室へ向かおうとしたが、笹川の言葉が気になり昇降口の自分の靴箱へ向かう。




――俺の靴は、半分見えなくなっていた。

え、何コレ

思わずそう呟く。
見えなくなっているのは、靴箱に入れられた無数の手紙のせいで、そのどれを見ても、筆跡からして男子だった。

うーん…と少し悩んでから、応接室で読もうと考え、手紙を書類の上に乗せて持つ。
そして気を取り直して応接室へ向かった。




「――それ全部今日の書類?」
「ああ違う違う」

ドアを開けて応接室に入ると、雲雀にそう訊かれた。
ドサッと書類と手紙を机に置く。雲雀がチラリとそれに視線をやって、また口を開いた。

「…何それ」
「さァ。靴箱に入ってた。ちょっとここで読むけどいいよな」

そう言ってソファに座って手紙を手に取り、開いて読んだ。


「……んだこれ。果たし状?」
「なんて書いてあるの?」
「『宵町暦さんへ。放課後、体育館裏に来てください。話があります。』…いや、果たし状なら話があるなんて書かねぇか…」

そう呟くと、雲雀のほうから殺気に似たものが放たれた。

何、何だよどうした!?
「…なんでも。他の手紙は?」


「え?えーと…
『好きです。付き合ってください』
『ぜひ今度会ってください』
『話があるので、放課後2-Bの教室にきてください』――――……ってとこか。雲雀、殺気消せ。 何なんだよさっきから」


殺気を垂れ流している雲雀に、何故なのか全く分からないがそう言う。
殺気流しっぱなしの雲雀が口を開く。

「…で、その手紙に対する暦の感想は?」
「あ?…そーだな…果たし状が多いな…いや話があるのか…。てか、話があるならテメェが来いって感じじゃね?
あ、あと『付き合ってください』って、どこについていけばいいんだろうな?」

そう訊くと、雲雀の殺気が治まった。
雲雀が口を開きながら立ち上がった。

「…さあ。どこに行けばいいんだろうね。まあそれは置いといて、ほら」

そう言って、袋に入った何かを渡してくる。

受け取って中を見ると、包装されたクッキーが姿を現した。


――そういえば、誕生日だったっけ今日。
忘れてたということは口に出さず、頬を緩めた。

「おー!知ってたんだな!ありがとう!」
「…………別に」


俺の隣に座りながらそう言う。


「特別に今日嘘ついて会議サボったことは許してやろう!」
「言っとくけど、桜クラ病って嘘じゃないから」
は?

その言葉に、クッキーの包装紙を剥がしながら間抜けな声を出した。

……まだ嘘を突き通すとは…そんなに気に入ったのか?


ふと、窓の近くに桜があることに気付いて、雲雀の腕を引っ張りながら立ち上がり窓に近寄る。


「! ちょっと…」

雲雀の声を無視してガラリと窓を開けた。途端に風と一緒に入ってくる桜の花びら。

花びらが入ってきた途端、ガクンと雲雀が床に両膝をついた。

「……!」

顔を下に向けて、ついには俺が掴んでないほうの手まで床についた。
そのことに戸惑う。

(え、え!?本当に!?)


バンッと勢いよく窓を閉めて、俺も膝をついて自分と雲雀の制服についた桜の花びらを払った。

全部払い終わると、雲雀が顔を上げ俺を見てくる。

「…暦、君…咬み殺すよ…」
「え、あ、ごめん。
まさか本当だと思わなくて…。立てるか?」

そう訊くと、無言で、自分で立ち上がる雲雀。
……やっべ、怒らせた?

「…ごめん」
「……いいよ別に。二度としないでね」

小声で謝ると、ソファに座った雲雀はぶっきらぼうながらも許してくれた。
許してもらってなんだが、そのことに驚く。


「…え、マジで?いや、咬み殺されるのは嫌だが、一発殴られるくらいは覚悟してたのに…何で?」
「何でって…」

チラッと、雲雀が手紙の山を見てから、少し笑って俺に視線を戻す。








「僕は暦のこと、好きだからね」




その言葉に、少し眉を上げる。


「好き…かァ。少し意外だけど…俺も雲雀のこと好きだけど?」
「知ってる。だから許すんだよ」
「? …じゃあなんでツナのこと咬み殺したんだ?ツナも怖がってはいるけど、お前のこと嫌いではないと思うぜ?」


そう言ったら、少し笑われた。

何なんだろうと思いながらも、雲雀の隣に座ってクッキーを食べる。

うまー、と言いながら、夢中になっていたせいで、そのときの雲雀の表情には気付かなかった。



(――ある意味、暦には一生勝てないかもしれない)





どんな風に記憶され忘れ去られてゆくのかしら