あれから30日、1ヶ月もたった。相も変わらずな日常で雑用ばかりこなしている。
大佐の事は少しずつだけど消化していってる…はず。時間がどうにかしてくれる、って話をよく聞くし。

私は前と変わらない生活を送っている。





「おや」
「……」


はずだった…そう、さっきまでは。


「すみませんが、少佐の行き先についてご存知ありませんか?」


な、ななななんで此処にいる!?
え、や、頼まれていた書類を運んで来ていただけなのだが…。前は会いたい、会いたいと思っていても会えなかったのに。今は会いたくないと思っているのに、どうしてこうもすんなり会えているんだろう?(世の中こんなもんだ)


「聞いているんですか?」
「は、ハイ!もちろんです!」


声が裏がえった。バレるのはさすがにヤバい。引きつった頬が戻らない。


「申し訳ありませんが私は一般兵であります。少佐の行き先について何も存じあげておりません。こ、こここれから勤務に戻ります!失礼しました」




さっさと戻ろとした私の背中に彼の声がかけられた。「待ちなさい…誰が行ってもいい、と?」
「……(ひぃ!)」


一歩大佐が近づけば、私は一歩下がる。
無意味な行動だと分かっていても、今の私には軍人生命を断ち切ることになるかもしれない。いや、なるんだろうな…。
輝かしい笑顔が怖いです、大佐。


「名前も教えてはくれないのですね」
「し、失礼しました!ナマエ・ファミリアです!」


後ろには壁、すぐ目の前には大佐。もう私の頭の中はパニック状態で。とにかく!少佐早く帰って来いとか…。


「ナマエ」
「っ!」


耳元で低い声。あまりにも近い大佐との距離。もう脳はパンク寸前だ。


「ナマエやっと見つけましたよ


聞き取りづらかったけど確かに今、彼は…。顔を上げてみれば大佐が微笑んでいて。次の瞬間には柔らかい感触を唇で感じていた。すいません、キャパオーバーです。







「う…ん」


どこか見慣れた天井はよく自分達が仮眠を取っている部屋のものだった。どこかぼーっとする頭で必死で考える。


「なんでここにいるんだろう…」
「私が運びました」


ベットが軋む。自分と天井の間に入ってきた彼は本物なのだろうか?
手を伸ばし大佐に触れてみた。少し冷たさを感じる頬、手を当てていればそこからじんわりと熱を共有する。白くなめらかな肌が、……うらやましい。


「どうされました?」
「どう、して?」


大佐は笑みを深くすると、私の手に自分の手を重ねた。


「急に倒れるから心配しましたよ」
「…申し訳ありません」


何故謝ってるんだ私。ああ、夢かこれ。優しい手つきで頭を撫でて、微笑む大佐がいるなんて。


「好きですよ、ナマエが」
「……私も、好きでした」


なんて都合のいい夢なのだろうと思った。
私の返事を聞いて彼は私にキスを一つ。現実味がおびた、酷い夢だ。





ゆ め う つ つ




それでも唇に触れた温もりは本物のようで。



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