これがナマエとの出会いでした。


「隣、いいかしら?」
「ええ、構いませんよ」


追い払うのも億劫だと感じた彼女は真紅のルージュをひいた唇で艶やかに微笑んだ。
今日は急ぐ仕事もなく早く上がることが出来たので久しぶりに馴染みのBARにやって来た。カウンターに座り、いつもと同じ物を頼んでいた。


「なぜ、私の隣に?」
「そうね、気分かしら。…なんてね、この席によく座るからつい癖で。ごめんなさい迷惑だったかしら?」
「いえそういう訳ではないので」


そう、なら良かったわ。とニコリとした彼女の頬は赤い。もうかなり飲んでいるのか。これは、早く帰った方が良さそうだ、本格的に絡まれる前に。何も話すこともなくしばらく静かに酒をかたむけていると、彼女はぽつりと呟いた。


「今日でもう止めにするの」


何をですか、出かけた言葉を飲み込んだ。彼女はひどく寂しそうな瞳をしていて、野暮な事を聞くものではないと感じた。


「無謀すぎる恋だった。私なんか視界にすら入れない…」
「貴女程綺麗な方が、ですか?」


きょとんとした後に笑いながら、お世辞言っても何も出ないわよ。なんて、お世辞ではなく褒めたつもりだったのだが…。


「だから今夜はやけ酒!」


追い払うのも億劫だと感じていたはずなのに。


「飲み過ぎには気を付けて下さい」

「ありがとう」


ふわりと彼女があまりにも綺麗に笑うので息をするのも忘れていた。





こ の 胸 の 痛 み は き っ と




今日が終わり明日が始まればいつもと変わらぬ日々を…送るはずだった。







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