今年で最後。そうだ、かなり凝ったもの作ろう。今まで一番の出来にしようと決めたの。たくさんの色んな想いを込めて。(寂しいも、悲しいも、辛いも、苦しいも)
「こんなもんかな」
レシピと腕の中にあるボールを見比べた。これくらいで大丈夫だろうと思いケーキの型に生地を流し込む。予め温めておいたオーブンの中へ。タイマーをセットしてスイッチを入れる。ケーキが焼き上がるまでに使った道具の片付けとデコレーションのための生クリームとフルーツを用意する。
今年のケーキは……数種類のフルーツを沢山使ったケーキにした。凝った物もいいと思ったが、このケーキは私が初めて綱吉のために焼いた思い出のケーキだったから。遠い記憶に思いを馳せた。そう言えばあの時…。
ガチャリと扉の開く音がして振り向けばそこには綱吉の姿が。
「何してるの?」
久し振りに聞いた彼の声はどこか冷たい。ああ、やっぱりもうダメだったんだ、私達の関係は。
「名前聞いてるの?」
私はもうケーキを焼く事すら許されないのかな?彼はちらりと机の上とオーブンを見た。
「…名前、何してたの」
さらに低くなった声に肩が微かに震えた。
「今日何の日か知ってる?」
今日は明日の用意で特別忙しい。その間合いをぬってこうしてケーキを焼いていたのだが…、何か気に触ることでもしてしまっただろうか。それなりに理由を考えみたがどれもいまいちだった。何故彼はこんなにも怒っているのかわからない。
忙しなく頭を働かせていたら彼が息を吐く程度の小さな声でこぼした言葉に驚いた。
―今日はリボーンの誕生日だよ―
嘘 を 作 っ て 閉 じ 込 め る
あの時もそうだった。誕生日前日にこっそりケーキを焼いているときに貴方に見つかり、凄い勢いで詰め寄られたっけ。
「名前それ…」
「え、いや、これは…」「……名前は俺の彼女だろ!」
リボーンのためなんかにケーキ焼かないでよ!そう言って抱きしめられた事を今でも鮮明に思い出せるよ。まだ子供だった貴方の嫉妬。凄く嬉しくて本当の事を話せば、びっくりした後、ふわりと笑ってありがとう、て言ってくれたよね。
どうしてあの時の事を思い出してしまったのかな。あのね綱吉、このケーキは毎年貴方のために焼いている物なの。(好きの気持ちも込めて)
そう伝えれたらどんなにいいか。
御題『壊れゆく10題』より
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