「ついて来い」


その一言が私にとって救いと同等の意味を持った言葉であったのだ。




彼のニヒルな表情から多くことは汲み取れないけど、この現状を抜け出だせる打開策を彼は知っているのだと確信が持てた。いやこれは人間なら誰もが持つ直感的な…本能なのだろう。

死への予感…と言うヤツだ。








「どうしたの?私にだけ話なんて珍しい」


何の感情を籠もらない瞳は彼によく似ている。


「頭の切れるお前のことだ。……もうわかってんだろ」


言葉に疑問は含まれていない。やはり私の考えていることは間違っていないらしい。いったい何時この日が来るのかと指折り数えていた。それが今日だとは思わかっただけで別段気にする必要もない。



「どうする?」

「聞く意味なんてないでしょう。これはもう決定した事であって、それ以外の答えは認められない」


目の前のカップにはアップルティーが湯気をたてている。これくらい綺麗な紅色であればいくらでも流しても気にならないのに。人に流れる赤い血はもっと紅く、鮮明な色をしていて目に痛い。


「名前、お前には拒否権が与えられているはずだが」

「そんな物とっくの昔に消えてなくなってる」


ふと、先日の任務風景を思いだす。
血も紅茶のように素直に絨毯に吸い込まれるのであれば、流す事に戸惑いを感じることは無いのだろうか。そんな意味の無いことを、黙り込んでしまった元家庭教師を視界に入れながらつらつらと考えた。





崩 壊 す る 物 語 論






「お前に任務だ、名前」


深く息をすったリボーンが重々しく吐き出した。

死のうが構わない。
この苦しくて仕方ない空間から逃れられるなら。








御題『壊れゆく10題』より
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