深く深い海の底に差す、ひと筋の光のように。
 崩れた崖で掴む蔦のように。
 悪夢のあとの母の腕の中のように。
 愛しい声はいつだってこの身を抱くように耳に響く。
 時に優しく、時に力強く。

 「――――しゃ、犬夜叉」

 ふわりと目蓋を開ければ、陽を吸い込んだように金の瞳が輝き始める。
 まだ幾らかぼんやりとしたそれが、よく寝てたね、と微笑むかごめの姿を映した。

 「あぁ……」

 思わず綻ぶ口元は、きっとつい今しがたの夢の名残だ。

 「ねぇ、なんかいい夢でも見てたの?」

 「……なんでだよ」

 「なんか幸せそうだったから」

 膝の上でふと綻ぶ顔を見たのだと。
 そう話すかごめに、犬夜叉はふいと視線を反らした。

 「……覚えてねぇ」

 くすくすと微笑む声が耳に触れる。
 それに胸の奥底を擽られたものだから、傾き始めた陽を言い訳にして、犬夜叉は手を差し出した。
 細い指がしっかり絡み合い、きゅっと結ばれる。

 「帰ろっか」

 「おう」

 ふたりの側で他愛ない話を拾うように、蝶がひらりと陽に舞う。
 ころころと笑うかごめを見ながら、また自分の名を紡ぐその声に、犬夜叉はそっと耳を澄ませた。



  福音







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -