夜明けから降り始めた雨は少しの間も止むことなく、ぱたぱたと藁葺きに音を響かせる。
 陽は夜の帳の向こうに落ち、湿り気を含んだ冷たい風が閉ざした窓の隙間を抜ける。
 数日前までの暖かさなど、どこかへ置き去ったような肌寒さに、かごめがふるりと震えたのは数刻前のことだ。
 慣れぬ茣蓙は痛かろうと敷かれた犬夜叉の単が、汗ばむ肌にはさらりと心地いい。
 そしてそれ以上に触れ合う素肌がしっとり馴染んで、かごめはほぅ、とため息を零した。
 小屋に籠っていた熱気はいつの間にか消え失せ、ひんやりとした空気に戻る。
 それを気にした犬夜叉が足先までぴたりと重ねているものだから、例えむき出しの肌が緋衣からはみ出ていようと幾らも寒くなどなかった。

 「寒くねぇか?」

 「うん、犬夜叉がいてくれるから平気よ」

 「そうか」

 犬夜叉は出逢った頃の好戦的な笑みなど微塵もないほどに柔らかく微笑むと、わずかな隙間も厭うように細い身体を抱いた。
 そして華奢な鎖骨に擦り寄りながら、恍惚としたため息をもらす。
 甘えられている、とは思うものの未だ慣れぬ情事のあとでは、なんとも心落ち着かない。
 現に先ほどまではうつらうつらと落ちそうだった目蓋の重さも忘れてしまった。
 一度意識してしまえば、これ以上ないほどに近づいた体温に汗ばむ肌。
 掠れた低い声に首筋にかかる吐息。
 時折、肌を掠める睫毛のこそばゆさや、男を帯びた匂いまで。
 犬夜叉のひとつひとつに高鳴りゆく胸の音に、かごめは指先までぴん、と意識を向けた。
 せめて少しだけでも、と離れようにも絡んだ四肢がそれを許さない。
 次第に鋭敏になりゆく感覚に、ついには下腹が甘くときめいた。
 戸惑えど、もう誤魔化しなどきかない気がする。
 誰よりも何よりも自分へは。
 かごめは意を決すると、そろそろと口を開いた。

 「あ、あの……犬夜叉?」

 「ん?」

 「その……やっぱりね、少し寒いな、って……」
 
 誘うには理由がほしかった。
 熱い身体に感じる夜の冷たさはむしろ心地いいほどで、寒さなどただの言い訳だ。
 かごめはほっそりとした両腕を項に回すと、犬夜叉の首筋でたどたどしくもそう囁いた。
 絡み合った脚が明確な意図を持って擦り寄る。
 尻すぼみになる声とはうらはらに、白い頬が熱に彩られていくのを丸く見開いた眼で犬夜叉は見つめた。
 そしてかごめの言葉を正しく理解すると、走り始めた鼓動を隠して、犬夜叉は柔らかく小さな耳先をそっと食んだ。

 「……なら、もっとこっちに来いよ」

 背を温めていた手が、腰を辿り丸い尻を包む。

 「う、うん……」

 逞しい胸板にまろい乳房が潰されるほどに抱きしめられて、思わず零れた吐息に犬夜叉は短く笑った。
 震えた指先が拙く背を抱く。
 小さなつま先がいじらしく、犬夜叉の素足を伝った。



  つま先の劣情



もとびさんの妄想捗るこちらの絵に寄せて書かせていただきました。
もとびさん、ありがとうございました!






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