しらしらと明けゆく空に、赫奕かくえきとしていた月も影を潜める。

 「っぅ、」

 「わりぃ……」

 小さく呻いた声に犬夜叉はそうとだけ呟くと、血の滲む耳殻を舐った。
 そして優しく抱くように白い肌に手を滑らせては、ふつふつと背に浮かんだ玉のような汗を舌先で掬う。
 痺れるような甘さに喉を鳴らせば、それは存外大きく響いた。
 小屋に充満する水音も匂いも声も、限りなく淫靡だ。
 振り乱れた髪を丁寧に梳りながら口づけると、かごめは喘ぐ声のなかでときめくような吐息を零した。
 大切にしたい。優しくしたい。傷つけたくない――――犬夜叉がそう思っていたのはいつの頃だったか。
 今もあの頃と違わず、そう思ってはいるものの、日に日に膨らむ欲は虚ろに行き場を探す。
 ひとつ、またひとつ。かごめの肢体に増え行く傷は行き着いた欲の痕跡だ。
 嫌と怒り、手を振り払ってくれればいいものの、彼女は決してそれをしない。

 「かごめ……」

 乞うような眼差しで名前を呼んで、広げられた細腕に抱かれる。
 またこうして許される。そしてまた――――
 もう掠れた声に甘く呼ばれて、犬夜叉は首筋に牙を立てた。
 ぷつりと弾けた皮膚からは甘く赤い味がした。



  







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