軋むベットに、少し乱れた呼吸。 苦しげに名前を呼ばれて、かごめは走らせていたペンを止め面を上げた。 椅子ごと振り返れば、彼女のベッドの上ではいつもの雄々しさを潜ませ、犬夜叉が身体丸めて眠っている。 どこか飼い猫を彷彿とさせるその姿は、もう見慣れたものだ。 先ほどまで幼げな寝顔を浮かべていた表情は、零れる声や呼吸と違わず苦しげだ。 何か悪い夢でも見ているのだろうか。 眠りの浅い犬夜叉が、時折夢にうなされていることをかごめは知っていた。 そして幼子を抱きしめるように、その身に触れれば落ち着くことも。 かごめが静かに立ち上がり、汗の滲む額に触れようとしたその時、また名前を呼ばれた。 今度は熱く、色づくように。 「かごめ……、っ」 「犬夜叉?」 掠れた声に纏う吐息が、細い指をしっとりと撫でる。 その熱さに戸惑っていると、かごめはふと微かに揺れる腰に気づいた。 「……!!」 (待って待って!これって!) きっと悪い夢などではない。 むしろ、これは、きっと―――― まさかの痴態とも言える姿に、覚えたばかりの数式も掻き消えてしまいそうだ。 かごめは沸騰しそうなほどに熱くなった頬を包み隠す。 気だるげに寝返りを打ちながらも、その目蓋はまだ開くことはない。 譫言のように呼ばれる名前や吐息はまるで誘うように室内に響く。 かごめは躊躇いながらも、ごくりと唾を飲み込み、そろそろと身を寄せた。 重みを受けて軋むベッドに、胸がうるさく音を鳴らす。 それを全身で聞きながら、かごめは犬夜叉を見下ろすと、震える指先で湿った銀髪ごと頬を撫で上げた。 「犬夜叉……」 「ぅぁ、……ん、……へ?かごめ?」 ようやく開いた眼がかごめをいっぱいに映し込む。 先ほどまで色濃く呼ばれた名前とは一転、慌てふためく声をあげる唇をかごめはそっとなぞった。 「……っ、な、どうした?」 黒髪がさらりと肩から流れ落ち、犬夜叉の頬に影を作る。 かごめの脳裏には、つい今しがたの犬夜叉の悩ましげな声や姿がありありと描かれていた。 「ねぇ、犬夜叉」 呼んだ名前が同じように熱い。 ぎりぎりまで近づけた唇がしっとりと湿るほどに。 「夢のあたしはどうだった?」 赤面し見開く眼に、かごめは悪戯に微笑んだ。 |