炎天下、陽炎さえも立ち昇る。 眩しいほどの青空の奥で、姿を膨らませる入道雲に季節の盛りを感じる。 いつもは空高くを飛ぶ鳥さえも、乾き始めた水溜りではしゃいでは、木陰で羽を休めていた。 燦々と照る陽を避けた縁側で、すぐ側に置いた扇風機に吹かれながら、犬夜叉はかいた汗を乾かしていた。 「お疲れさま」 「おー……」 湿気と熱気のこもる蔵の掃除を終え、ようやくひと息ついたかと思えば、焼けつくほどに陽の照る境内の打ち水を頼まれた。 邪気のない笑みで言われては断ることなどできなくて、犬夜叉にしては珍しく文句のひとつも言わずに桶と柄杓を受け取った。 どうにもあの笑顔には弱いのだ。 さすがはかごめの母と言ったところか。 「はい、犬夜叉のぶん」 ぐたりと扇がれていた犬夜叉に、かごめはぱきん、と折った片割れを差し出した。 ちゅーぺっと、と言ったか────その名を思い出しながら犬夜叉は素直に受け取った。 もう薄く溶け始めたそこからは桃のような匂いがする。 先日初めて食べたそれは、この時期には驚くほどに冷たかった。 渡された氷菓もやはり同じように冷たくて、手のひらが少しばかり痛い。 犬夜叉は左手へと持ち変えると、かごめに倣って口をつけた。 ひたりと溢れそうな露は不思議なほどにあまい。 人よりも随分と長く生きる犬夜叉も知らないほどに。 慣れないながらも指で揉んでは吸い付いて。時々口の部分を齧ってみる。 勢いで牙を立てた口は、少しひしゃげていた。 それを見て犬夜叉は、先日かごめにあまり強く噛まない方がいいと教えられたことを思い出した。 噛みつく力を弱めると、口のなかでもう溶けたものを飲み込む。 冷たさが喉を過ぎ、臓腑の形を感じさせる。 身体の内側から冷えていく。それが心地よかった。 「おいしいね」 縁側で晒した素足をぶらつかせながらかごめが微笑む。 暑さにやられたのか、少しだけ気だるそうに。 けれどもふわりとした笑顔は夏の陽射しのなかで輝いた。 「おぅ…」 ほんのりと焼けた首筋にひと筋、汗が通り過ぎる。 先程よりも色濃くした唇が、また氷菓を咥えた。 あの赤い唇は、その色のようにあついのだろうか。 自分の知らないあまさだろうか。 手のひらの熱に、氷菓が溶ける。 じわじわと鳴く蝉の声が、やたらと煩い。 犬夜叉は喉の奥まで纏わりつくあまさに、唾を飲み込んだ。 夏恋慕 |