荒く吐息が響いて、掴まれた手首がベッドに沈む。

 「かごめ……っ、」

 まるで名前すら掻き抱くように苦しげに呼ばれて、かごめは熱に浮かされ始めた金の瞳を見つめた。
 外は秋色に色づき始め、暮れゆく空の茜色が窓から差し込む。
 燃えるようなその色は、室内を包み、犬夜叉の髪をも染め上げていた。

 「犬夜叉、」

 手首を掴んでいた手が、早急に這いながら、焦るように指を絡め取る。
 その手のひらは、ふたりを近づけるようにしっとりと湿っていた。
 そして互いにきつく手を結ぶと、ゆったりとした動きで胸許に沈んでいく頭を、かごめは見つめた。
 鼻先が肌を擽り、ぽつりと安堵の声が漏れる。

 「おまえ……いい匂いだな……」

 (こんなときに何を────)
 汗の滲む胸許を、柔らかであまいため息が撫でる。
 ふと見えた口許が微かに緩んでいる。
 垂れる髪の隙間から覗く目許が、しあわせそうに笑んでいる。

 「いぬや、しゃ……」

 汗で張り付く髪を避けながら、かごめが空いた方の手で頬を撫でると、あまえるように擦り寄って、大きな手がそこを包んだ。
 愛おしみ、慈しみながらも、熱く自分を求める姿に、かごめはたまらない胸苦しさに息を詰めた。
 胸の奥が熱くて、あまくて、切なくて、鼻の奥がつんと痛む。
 まるで言葉はなくとも、『好き』だと、ひたひたとした想いに包まれているようだ。

 「…………あんた、ずるいわ……そんな表情……ずるい」

 ぼやける視界で、犬夜叉は瞬くと、一瞬だけ眉を垂らして、それから微笑んだ。
 額を合わせ、擦り合わせた鼻先は生ぬるい。
 睫毛が絡むほどに近い視線と、呼ばれた名前に、かごめは絡めた指を握りしめた。



  







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