ふと見た横顔が、いつもと違って見えた。
 (あれ?)
 少し強く吹いた風がふたりの髪を後ろへ攫う。
 銀髪が風にたなびくたびに陽射しを浴びて、きらきらと光を零した。
 顕になった首筋は太く、ほんのりと焼けた色やくっきりと描かれる喉仏の線が、なんとも男らしい。
 かごめのなかで、焦燥にも似た気持ちが生まれた。
 (犬夜叉って、こんなに────)
 大人っぽかっただろうか。
 かごめがふと疑問を浮かべると、それと同時にときん、と胸が鳴った。
 凛々しい眉や意思の強い眼差しは、出逢った頃と変わらない。
 いや、眼差しは優しく柔らかく、時折あまくなった気がする。
 それと骨格は────そういえば確かに変わったかもしれない。
 けれどもそれだけではなくて、上手くは言えない何かが彼を今までとは違って見せていた。
 じっ、とかごめが見つめていると、刺すような視線に気づいた犬夜叉が振り返る。

 「どうした?」

 まじまじと、何かを確認するように自分のことを映すかごめの目は、いつもよりもまん丸としていた。
 「ううん……なんか……」
 心ここに在らず、といったふうに少しぼんやりとしながら、何かを探るように、ぽそりぽそりと呟く声が聞こえると、へらりと頬が緩んだ。

 「カッコイイな、って思って」

 「なっ、」

 突然何を言うのだ。
 一切予測のできなかった言葉に、犬夜叉は顔を赤くし狼狽えるしかなった。
 それをかごめは気にも留めずに、犬夜叉の赤くなった頬を優しく摩る。
 あの頃よりも丸みをなくした輪郭は、やはり大人っぽさを醸し出している。
 けれども頬の赤みも、照れて困ったような眉も眼も、少し拗ねたような唇もあの頃の幼さを滲ませていた。
 (あ、見つけた)
 懐手を組み、どこか他所を見ながらぶつぶつと何かを呟く犬夜叉に、かごめはふふ、と笑みを零した。
 先ほど感じた焦燥のようなものは、もうどこかへ影を潜めた。

 「犬夜叉」

 「……なんだよ」

 洗練された輪郭を、人差し指でつ、となぞる。

 「好きよ」

 軽いリップ音を立てて口づけた頬は、まだまだ冷めそうにはなかった。



  One






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