「よし、じゃあ行ってくるな」

 朝餉で満たした腹をぽんと叩き、白湯を啜っていたのはつい先ほど。
 いつもであればもう少しのんびり過ごすのだが、今朝はそうもいかなかった。
 それというのも起き抜けのかごめとのやり取りが、その時間へと当てられていた。
 許されるならあと少し、かごめと朝のひとときを過ごしたい。
 しかしかごめは約束に遅れることを嫌うのだ。
 犬夜叉がいくら平気だと言おうとも、待たせては悪いから、仕事だからと窘められるのが目に見えている。
 人ほど食を必要とはしない犬夜叉が、こうして決まった時間に食事をするようになったのは、かごめと出逢い暫くしてからだった。
 当初は面倒と感じていた時間も重ねていけば、やがてはそれもいいものだと思えるようになった。
 特にかごめと暮らし始めてからの穏やかなひとときは、もう欠かすことのできないものとなっていた。
 そんな朝の貴重な時間を早めに切り上げるのは、口惜しいことこの上ない。
 犬夜叉が重たい腰を上げながら、昨夜手入れをした鉄砕牙を腰に携える。
 そして戸を開けると、かごめは慌てて声をかけた。

 「あっ、待って!」

 厨から駆けてくるかごめの手には、竹皮で包まれたものが乗っている。

 「はい、お昼ご飯」

 渡されたそれはまだほんのりと温かく、包んだ竹皮の隙間からは米と少し塩気のあるような匂いがした。
 恐らくこの中にはかごめの手のような少し小さな握り飯がいくつかと、先日一緒に漬けた漬物が入っている。
 上手くできたらお裾分けするのだと、頂きものだという大根やら白菜やらをせっせと樽に敷き詰めていた。
 犬夜叉はその姿を思い出し目尻を垂らした。

 「気を付けてね」

 「おう」

 にこりと笑うかごめにつられて、犬夜叉も微笑む。
 そして足を外へと踏み出して――――はっと気づいたように踵を返した。
 振り返り見たかごめは、きょとんとしながら玄関先で佇む。
 そんなかごめに手を伸ばし肩を抱くと、そのまま引き寄せ口付けをひとつ。
 ふに、と唇が触れるとくりくりとした瞳が、更に大きく丸くなるのを犬夜叉は間近で見つめた。
 短いながらもしかと感触を味わい、唇を離して熱い頬をひと撫で。

 「行ってくるな」

 「〜〜〜っ!」

 ぽんぽんと頭を叩き、いたずらっ子の目線をかごめに送る。

 「っ、早く行ってきて!」

 かごめは赤い顔で睨むと、目の前の胸板をぺしりと叩いた。
 そして軽い返事をしながら楽しげに村の出口へと向かう犬夜叉を睨みつつ見送ると、目の前いっぱいに広がった犬夜叉の表情を思い出し、熱い頬を包んでしゃがみ込むのだった。



  早く帰ってきてね、と朝6時







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