まん丸な月が、半端に引かれたカーテンから顔を覗かせる。 夜を吸い込みそうなほどに、ぽっかりと空いた月明かりも、煌々と照る、ただひと部屋の明かりには適わないでいた。 潜めた声は何やらいつもと違う雰囲気を醸し出し、漏れ出ることなく部屋の中に留まる。 「えっ、あの、犬夜叉っ、ちょっと待って!」 「やだ」 柔らかい衣擦れが聞こえると、犬夜叉に投げ捨てられたスカーフが、花を散らすようにふわりと床に広がった。 器用に開かれたセーラー服の向こう側は、白く滑らかな肌が輝く。 傷ひとつ、ほくろひとつないそこを優しくなぞれば、豊かな膨らみがふるりと震えた。 「犬夜叉っ」 不躾な手を咄嗟に掴むと、舐めるようにして見つめていた肌から犬夜叉が顔を上げた。 すると意外にも醒めた眼とかち合って、かごめは思わず息を呑む。 「なんだよ」 気怠げな声からは、いつもの優しさの影すら見えなかった。 犬夜叉が日頃、なにかを耐えていたのは知っていた。 その正体がなんなのかも。 かごめとて色恋沙汰に興味がないわけではない。 好きだ惚れたと、言葉こそないものの、互いの想いは十分すぎるほどにわかっていた。 だからというわけではないが、束の間の休息に少しだけ戯れに甘えて、ふたりきりの時間を過ごせたら、と思っただけだった。 優しくて、なんだかんだ紳士的なところもあるからと、いたずらが過ぎたのだろうか。 きっと月が膨らむように募った犬夜叉の想いは、萎むことなく欲になり、その形を変えても膨らみ続けていたのだ。 そこに可愛らしい棘をひとつ、ふたつ、ぷつりと刺してしまった。 感じたことのない雰囲気に、犬夜叉の手を掴んだ指先が白くなるほどに、かごめは力を込めた。 怖くないわけではない。 けれどもこの先を期待している自分もいる。 ドキドキと鳴る胸の音は、もはやどちらなのか、かごめ自身にも分からなかった。 身動きひとつ取れないような空気が肌を刺す。 そんな中かごめが瞬きしたのを合図に、掴んだ手をいとも簡単に外された。 「きゃっ」 そして肩を軽く押されると、その身は容易にベッドへと沈む。 波打つシーツがやけに生々しい。 そのままかごめの身体を追うように、犬夜叉がベッドに身を寄せる。 軋むスプリングが耳の奥を引っ掻いて、身体が熱を上げた。 翳りから思わず目を反らす。 それを厭うように頬を撫でられ、恥じらいに隠した唇を顕にされた。 優しく迫りくる影が妙に熱い。 そっと唇に触れて、頬から首筋、その下へと過ぎる口づけに眩暈がする。 このまま呑み込まれてはいけないと、かごめの中に残った理性が声を上げた。 「お、おす」 やっとの思いで口を開く。 けれども唱えられるはずの言霊は、牙を剥き出した咥内に容易に飲み込まれた。 すべてを攫うように長い舌が隅々までを這い廻る。 ぎりぎりに捲れ上がった、スカートの隙間から伸びる脚を触る手のひらが、火傷しそうなほどに熱い。 汚れた唇を犬夜叉の吐息が塗り重ねるように湿らせた。 「諦めろ」 低く唸る声が、かごめの下腹をきゅんと鳴らした。 胸の高鳴りも、不安の奥の期待も、熱くなった身体も。 すべて見透かすように、目の前の琥珀色が深みを増した。 花開く夜 ポンチョさんの描かれたこちらの素敵な絵に寄せて書かせていただきました。 ポンチョさん、ありがとうございました! |