柔らかな光が眩しくて目を覚ます。
 まだまだ重たい目蓋をこじ開けると、目の前には眉尻を下げて眠る犬夜叉がいた。
 触れた剥き出しの肩が昨夜の名残を見せる。
 その冷たさとあまりの顔の近さに、寝起きだというのにどきりと胸が跳ねて頬は熱を持つ。

 井戸の中に空を見て、犬夜叉と共に生きていくと決めてから三ヵ月。
 ようやく自分たちの家も建ち、こちらでの生活にも少しずつ慣れてきた頃。
 犬夜叉と寝食を共にして、嘘のように穏やかな日々を過ごして、当初は傍らで私を見守るようにして座って寝ていた彼は、いつの間にか同じ布団で眠るようになっていた。
 一つの床で互いの熱を溶かし合いながらそのまま眠りにつく。
 そのことにたまらない安心感と充足感を覚えていた。
 しかしながらいつもは犬夜叉のほうが早く目覚めるものだから、時々こうやって自分が先に目覚めたときのこの様子にはまだ慣れないでいる。
 まだ熱い頬を手のひらで冷ましながら、せっかくだからと、まじまじと彼を見つめる。
 いつもはキリリと上がった眉は垂れ下がり、黄金色をした瞳はぴたりと閉じた目蓋に隠されて幼さを見せる。
 薄く開いた唇からは小さな寝息が漏れ、その奥にはちらりと牙が覗く。
 艶やかな髪は淡い陽にあたり、きらきらと光を反射させていた。
 見ているだけでは足らなくて、そっとその頬に指を這わせる。

 「髭、生えてる」

 以前はなかった、男にしては綺麗な肌にちくちくと生える、自分にはないものに性を意識してきゅうと胸が鳴った。

 あの三年の月日は本当に少しずつたくさんのものを変えていた。
 弥勒や珊瑚、七宝のみならず、殺生丸の変化には心底驚いたものだ。
 まさかあの殺生丸が人間の子をあんなにも大切に想っていようとは。
 そういえば『お義兄さん』と呼んだときの、この兄弟の表情は秀逸だった。
 そのときの様子をふと思い出して、くすりと笑った。
 そして彼は、犬夜叉は、少年から青年になっていた。
 自分が知るときよりも背は伸び、精悍さが増し、どことなく柔らかな雰囲気を湛えていた。
 その証拠に村の人たちとも、なんの違和感を持つこともなく接していた。
 それが喜ばしいことなのだけど、自分の知らない犬夜叉がいるようで少し寂しかったのも事実だ。
 乾いた唇をなぞろうとしたとき、その手をふわりと掴まれた。

 「誘ってんのか…?」

 長い睫毛が震えると、少しぼやけた双眸が現れた。
 そして掴まれた指先に口づけられて、そのまま緩く噛まれる。
 その甘さに思わず眩暈がした。

 「…そうかも」

 冷めたはずの頬が再び熱を持つ。
 一瞬だけ見開かれた目がふと弧を描き、どちらからともなく指を絡める。
 それを合図に触れるだけの口づけをした。

 「おはよ」

 「あぁ、おはよう」

 掠めた髭が少し痛くてくすぐったい。
 彼がここにいて、また明日も明後日もこうして朝を迎えられることを願いながら、もう一度唇を重ねた。



  まばたきにくちづけ









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