ふと意識が浮上して、うっすらと目を開いた。正面にママさんが寝ていて、俺との間に萩原から貰ったパンの人形が寝転んでいる。顔が冷たくてもぞ、と更に布団に潜ろうとすると、俺の横っ腹に腕が回されている事に気がついた。ママさんの両手は顔の前と、パンの頭にのっているので彼女のものではない。顔だけで振り返ると、視界の端に金色がちらついた。
「…へへ」
俺の背中側で、年齢の割にあどけない顔を晒したパパ殿が寝息を立てていた。俺の腹に回っていない右手、その中指と人差し指が、赤と緑のちいさな靴下に突っ込まれている。なるほど、どうやら俺が一番欲しかったプレゼントをサンタさんが置いていってくれたらしい。
零が寝ているところなんて滅多に見られるものではない。これを機会にちょっと寝顔でも眺めておこうと、ふたりを起こさないように、そっと寝返りを打つ。と、思いもよらない人物と目が会った。俺と零の間に横たわる、ふわふわの存在。頭から生える黒い二本の角の片方に被せられた俺の靴下、まんまるの目、そして歯が剥き出しの大きな口。えっ、あっ、こ、こいつは。かっと目が開いて、俺はそいつの顔をがしっと掴んだ。貴方は!!バイキンマン様!!
「はっ…えっ!!?きん!!!きんいる!!!?」
「っ!?何だ!!?う゛っ!?」
「えっ!!?な、何!!?」
俺の大声に目を覚した零が飛び起きて、バランスを崩して布団を巻き込みながら床に転がり落ちた。そしてその音でママさんも目を覚まして辺りを見回して混乱している。突然の情報量の多さに俺はそっとぱんときんのぬいぐるみを引き寄せて、両手で纏めてぎゅむっと抱きしめた。すまん。朝から大声出して本当にすまん。床に落っこちた零が倒れているだろう辺りから笑い声が上がって、俺もママさんと顔を見合わせて笑った。メリークリスマス、多分サンタさんはこの世のどこかにちゃんといる。
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