沖矢昴は生きている
  ジョーカーでワンペア

とはいえ、あの安室が沖矢を前に、大人しく接客してくれるだろうか。ぱたん、と玄関の扉を締めて、鍵を掛ける。こちらとしては別に安室透のことを敵と思った事はないが、あちらはその限りでは無い。沖矢昴の中身が必ずしも赤井秀一ではないと伝えることはできただろうが、かと言って安室から向けられる態度が軟化するとは考えにくかった。それでも彼も大人だ、痛烈な皮肉は飛ばしてくるかもしれないが物理攻撃を飛ばしてくる事は無いだろう。

鍵を抜いて、少し離れたところで待っている園子と蘭に歩み寄る。そのままポアロに向かおうとして、沖矢はふと足を止めた。予期せぬ遭遇になってしまうので、後で赤井にはメッセージの一つでも入れておこう。そう思いながら工藤邸を振り返った、ら、目が合った。

赤井と沖矢が寝室に使っている客間、その窓から沖矢昴が顔を覗かせていた。覗かせていた、というよりは恐らくその左手に持った煙草を吸うために窓から顔を出していたようだ。いつもは台所の換気扇の下で煙草に舌鼓を打っているものの、本日は沖矢が来客対応をしていたため、赤井は客間でFBIから回ってきた書類を片付けていた。今はちょうど、その休憩時間だったのだろう。

あんぐりと口を開けた沖矢を、「見つかってしまったか」と言わんばかりの表情の沖矢が見下ろす。それからふ、と表情を綻ばせた彼がひらひらと手を振った。いや何をしているんだ。直ちに引っ込めと眼光を飛ばした沖矢に赤井は肩を竦めて、沖矢の進行方向を指差してみせた。さっさと行けと言うことだろうか。溜め息をついて、沖矢は先行する女子高生二人の後を追い掛けた。

「さぁ振り返らずに一心不乱に前だけ見て行きましょうね」

あのヘビースモーカーは後で説教である。そう心に決めた沖矢の言葉に首を傾げた蘭が、ふと工藤邸を振り返った。そこには勿論、いつもと変わらない立派な洋館が佇んでいる。






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