Fxxk you bitch!!!!
you




もう俺の心休まる場所って家しかないんじゃないかな。そんな勢いで家まで帰って来た。あれが今日の最後の授業でよかった。確認もせずに学校から離れてしまったから。

「あーーーーー」

あぁ。

嫌だ。知りたくなかった。荷物を床に放り投げて、その場に座る。壁に背中を預けて目を閉じた。今日聞いたユースタスの言葉が頭を巡る。分かっていた。分かっていたのにどうしてわざわざ面と向かって言いに来たんだろう。さっさとローと別れろということなのだろうか。俺が、どうせもうすぐ終わりだとしても、ローの恋人という位置にいるのが気に食わないのだろうか。それとも、ローに頼まれた?あぁ、ない話じゃないかもしれない。俺が邪魔だけど、自分で直接手を下すのは煩わしかったのかもしれない。分からない。もう、なにも分からない。なんだか、酷く疲れた。今日は朝も食ってないし昼も買い忘れたから食ってない。腹も減った。頭も痛い。もうだめだ、寝てしまおう。壁に背中を預けて寝るなんて、どこのサバイバーだ。はは。もう、何も考えたくない。思考停止の馬鹿だろうと、そんなこと知るか。

そんなことを考えながら、その後、そっと頬を撫でられたのはどのくらい経ってからなのだろう。

「…モトイ、こんな所で寝んな」

ひた、と頬に何やら温かいものが触れて、目を覚ました。微かに目を開けると、見慣れた、しかしあまり会いたいとは言えない顔があった。適当に閉じたと思ったカーテンから漏れた西日がその胸元までを照らしている。気がついたらもう夕方だ。ゆっくりと目を開けると、その人、ローはふ、と微笑んだ。

「まだ秋だがこの時間は冷える、風邪引くだろ」

あぁ、また医学生の彼に健康的指導を受けてしまった。今の俺ならそこらの健康マニアより真っ当な生き方が出来るだろう。愛おしい。俺を気遣ってくれて、面倒臭がらずに俺の家に足を運ぶこの男が。愛おしくて、だからこそ。

「ロー…」

「ん?どうした?体調でも悪いのか?」

そう言って首を傾げたローは、頬に添えた手の親指でもって俺の目の下をそっと撫ぜた。いつもと変わらない、それどころか少しいつもより機嫌がいい、だろうか。その指先がなぞるのは、俺が二日酔いのためにこしらえた薄い隈がある箇所だ。

「どうしたんだ、これ」

薄い隈取を見咎めたらしいローが、少しだけ弾んだ声で尋ねてくる。ひどいな、俺は少し、体調が悪いのに。それとも、この隈がなんで健康優良児の俺の目の下に陣取っているのか、ローは知っていて、それを言わせるためにわざと訊いてきているのだろうか。そう思うと、自然に眉間に皺が寄って、口元には薄く自嘲染みた笑みが浮かんだ。ローが、怪訝そうに少し表情を曇らせる。それがどこか痛々しいものを見るようで、いや、それは俺の勝手な解釈のせいかもしれないのだけれど。

「…モトイ、?」

何だよ、その顔。そんな顔で見るなよ。

「…どうしたって、そんなの、お前が一番よく知っているんじゃないのか、ロー」

寝起きで平坦な声が、余計に冷たく聞こえた。自分でも驚くくらい。びくり、とローの指が震える。その怯えたような仕草が、凍り付いた表情が、余計に癪に障った。

「そんな顔すんなよ、何、俺が悪いの?」

「あぁ、いや、あれは」

おれの言葉に焦った様子で言葉を紡ごうとするローの様子に、殆ど何も考えずにぐ、と手を押し除けた。そのままの体勢で見開かれた目が彼にしては珍しくて、それでいて俺を苛立たせる要因になった。言い訳する気かよ、なんて、いつもは思わないしローの話を聞く余裕もあった。だが、今は何故だがずっと攻撃的な思考になっている。目の前の男を詰り問い詰めたくて、真正面からそのヘーゼルの瞳を射抜く。

「あれ?あれってことは俺が何の事言ってんのか分かってる、つまり昨日の写真はお前がユースタスに送るように言ったんだな」

「それは、そうだ…でも」

「あぁ、そう」

それが聞ければ充分だ。だったらもう残りのピースでパズルを完成させるだけだろう。否、今のローがくれたピースで、もう何もかも終わりだ。状況が飲み込めない、というように、言葉を中断させられたローが口籠る。

そうだな。きっとお前が言ったように、俺たちは潮時なんだろうな。俺は、少しも迷わずに、しかしゆっくりと口を開いた。

「じゃあさ、別れようか、ロー」








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