Fxxk you bitch!!!!
I




「愛されてる自信が欲しいィ?」

ハァ?と心底驚いた後にゲラゲラと笑い始めた赤い髪の男に缶チューハイを投げつける。ぎゃあ、なんて情けない声を上げたユースタス屋を鼻で笑って、話を戻す。

「…お前には分からねぇだろうな」

「あんなに尽くされててよく言うよなお前」

「それだ」

それだ。ビシッとテーブル越しの奴の鼻先に人差し指を突き付ければ、それを避けてユースタス屋がぎょっとして身を引く。あぶねぇじゃねぇか!そう喚く男の言葉は華麗にスルーしておれは自分の言い分を続けた。

「モトイとおれの出会いは知ってるな」

「知りたくもなかったけどな」

「なんだそうか良いだろうもう一度一から全て教えてやるその弱そうな頭に叩き込みやがれ」

「いらねぇ知ってるもうたくさんだテメェ何回聞かされたと思ってやがんだクソファルガー」

話したくてウズウズしていたのにユースタス屋にとっての渾身の語彙力で拒否されてしまった。うっかり舌打ちをしたら可哀想なものを見るような目で見られる。何だその目は。そこまで言うなら仕方ない、今回は出会いの話は見送ってやろう。重要なのはなぜおれがモトイに愛されている自信が持てないのか、ということだ。

「おれがモテるのは知ってるだろ」

顔を顰めてそう言うと、ユースタス屋は呆れたような目線をこちらに向けてくる。こいつは佇まいがいかつい分女との距離は遠い。おれは医学部なのもあるしこいつと比べたら見目麗しいからな、当然の様にモテる。モトイと付き合う前は殆どあちらから近づいて来た女をとっかえひっかえしていた感じだったし。ちなみにこれは自慢なんかじゃなくて黒歴史だ。

「なのにあいつ、それに関して嫉妬とか、ねぇんだよ」

手近にある既に開いた缶チューハイを傾ける。あーあ、なんてユースタス屋から感嘆の声が上がる。その声に更にチューハイを煽って、開いた感を床に投げ捨てた。

「この前なんて告白を断って帰ってきたおれになんて言ったと思う?なぁ、おい、聞いてんのか」

ユースタス屋はユースタス屋でつまみを貪ってやがるからもう一度話を聞くように声を掛ける。今日は午後の授業が休講になったから暇だ。だからこんな時間から酒を煽っているのであっていつもは昼間から呑みなんてありえない。

「なんだよ」

やっとこちらに視線を向けたユースタス屋は、心底面倒そうに言った。でもどうやら聞く気にはなっているらしいから、もう一缶手近にあった甘い酒を手にとって開ける。少し勿体つけて黙れば、ユースタス屋の視線が上がった。

「ローはかっこいいもんなぁ、ってよ」

おれがそう何の気なしにそう言えば、目の前の男は意外そうに目を見開いて、それから困ったように頭をガシガシと掻いた。

「…あー、そりゃまぁ、なんつーか」

「ちなみに出会いのきっかけも告白も何もかもおれからだ」

「……」

「せめてなんか言えよ」

苦笑して黙りこんだユースタス屋を少し睨みつけて、思い切り酒を煽る。なんだか頭がくらくらしてきたような気もするがもうどうでもいい。

嫌いだ。おれのことなんてどうでもいいように振る舞うモトイなんて。おれはこんなにモトイのことを好きなのに。でもあいつはおれにあんまり好きだとか愛してるだとかそんな事を言ってこないから、きっと恋人らしい関わり方は嫌いなんだろう。茶化してくっついてくる時やセックスだってしたことはあるがそれは別だ。面と向かって真面目な顔で好きだなんて言われたことがあっただろうか。ほんとうに、おれのことを好きでいてくれているのだろうか。

「…試してやる」

「あァ?…っておい、何してんだよ」

ぎり、と空になったチューハイの缶を握り潰して、呆気にとられるユースタス屋の前でおれはばさり、とスウェットの上を脱ぎ去った。おれの肉体美に何してんだとはなんだ、ありがたみの分かっていないユースタス屋に一つ舌打ちをしながら、その男に背中を見せる。

「ほら、つけろ」

「何をだよ」

「キスマークだろ、死ね」

「ハァ!?何言ってんだテメェが死ね!」

「なにも口付けろって言ってる訳じゃねぇ、お前口紅持ってんだろ、それでいい」

声を荒げてダン、とテーブルを殴ったユースタス屋にまぁ待て、と含みのある笑みを浮かべる。ここで重要なのは、ユースタス屋は学部と見た目のいかつさから殆ど女とは縁がないということだ。

「…女、紹介してやる」

にやりと笑いながらそう言えば、ユースタス屋はぐ、と言葉に詰まって、それでも少し渋って眉間に皺を寄せた。

「…いや、その程度でテメェらの痴情の縺れに巻き込まれるなんざなぁ…」

「お前はおれにキスマークをつけてその写真をモトイに送るだけでいい、簡単な仕事だ」

「写真を送る!?…おい、悪い事は言わねぇ、ああいうタイプはブチ切れると厄介なんだよ」

「だから、おれはモトイが怒ってる所を見てぇって言ってんだろ」

わからねぇ奴だな、少し語気を強めたがその後に思い直してユースタス屋に言葉を掛ける。医学部の女は卒業すれば女医だ。そうじゃなくてもその女共のツテで看護科にまで手を伸ばせる。つまり、お前が上手くやれば白衣の天使をモノに出来るんだぜ。

「…っ、しょうがねぇな!後悔しても知らねぇぞクソファルガー!」

「持つべきものは友だなユースタス屋」

交渉はどうやら成立らしい。

おれはもっとモトイに執着して貰いたい。笑顔で誤魔化したりしないでおれのために怒ったり困ったり悲しんだり、もっと沢山の顔が見たい。嫉妬だって束縛だって、モトイはしない。本当におれを愛しているのなら、もっとおれに対して感情を表してほしい。

おれのことを、求めて欲しいのだ。

さて、布石は打った。明日はモトイの家に泊まりに行く約束をしているから、もし大学で会わなくてもその時に反応を知ることができるだろう。いつも笑顔なモトイの少しだけ不機嫌そうな顔を想像して、おれは楽しみだとほくそ笑んだ。

「口はつけんなよ」

「頼まれてもしねーよ」

「おれに触れていいのはモトイだけだからな」

「分かってるわこっちから願い下げだ!」








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