Fxxk you bitch!!!!
you




終わりだ。全部終わりなんだ、何もかも。

あの直後、ペンギンとシャチにローが見つかったという旨と心配をかけて悪かったという謝罪の電話を入れて、理由を聞く言葉ものらりくらりと躱して切った事位は頭に残っている。どうやって家に帰ったのかは覚えていない。気が付いたらマンションの自分の部屋のドアの前に立っていて、走ったせいでTシャツがやけに背中に張り付いていたことに気が付いた。

携帯の画面を見ると、時計は既に二十三時を回っていた。随分ゆっくり歩いたのか、それとも駅でぼんやりしていた時間が長かったのは分からない。分からないし、もうそれもなんだかどうでもいい。

もしかしたら電車に乗るかもしれないと持って来ていた財布の中に、家の鍵が入っている。尻のポケットからそれを取り出して鍵穴に差し込む。開けようと回して手応えがなかったのには思わず呆れた。どうやら鍵を閉める間もなく家を飛び出したらしい。

「…アホくせ」

はは、と乾いた声が転がり落ちる。己の馬鹿さと盲目さに笑いが込みあげてドアノブを掴んで引けば、扉は当然のように開いた。開けた状態に固定できないドアで良かった。もしそうだったら、俺が飛び出した時に力一杯開けてそのまま出入り自由になっていただろう。田舎でも鍵は閉めなくても扉くらいは閉めるものだ。部屋に一歩入ればバタン、と背後で扉が閉まる音がする。鍵も閉めなければ、と頭のどこかでぼんやりと考えた。

今日はもう、シャワーを浴びて寝よう。ローを待って飯も食っていないが、今から作る気分にもレトルト食品を用意する気分にもなれない。いっその事酒でも一杯引っ掛けて寝よう。空きっ腹に酒は良くないと誰かに言われた気がするが、あぁ、ローだ。じゃあ風呂に入る前に酒を、いや、酔っぱらいが風呂に入るのは危険だと誰かが、あぁ、これもローだ。それならもういっそ風呂も明日で良いのでは、いや、それは清潔感がないし汗をかいた後は拭くかシャワーを浴びろと言っていた、これもローか。

玄関で立ち尽くしていた俺は靴を脱ぎ捨ててふらりと部屋の中に歩みを進めた。部屋には置きっぱなしのローの部屋着、ローの為に買った白熊のカバーのついた枕、戸棚のガラスの扉の向こうのマグカップ。それからこの間来た時に使ったバスタオルが干されていた。それを何となく見ないようにして、そっと息を吐いた。持って帰るのが面倒だと段々増えていく、俺のものじゃないもの。部屋にそれが増える度にしょうがないななんて苦笑していつしか愛おしく思っていたのに、今となっては一つ一つが俺を苛んで、嘲笑っているような気もしてくるから不思議だ。

ともかく風呂に入ろう。明日は学校があるし朝に入っている時間もない。この汗まみれの体のまま布団で寝る気にもなれないし、面倒でも入ってしまったほうがいいだろう。その後に冷蔵庫のプリンでも食いながら、あぁ、あれはローが食うって言って買ってきたやつだ。でもあいつも前に俺のアイス食ったしイーブンだろう。それから酒を飲めば空きっ腹でもないしセーフだ。そこまで考えて、自嘲じみた笑い声が喉をついて出る。

「…イーブンって俺、まだ」

まだ、あいつと一緒にいられるとでも。

ぎり、と噛み締めた歯が音を立てた。何を考えてるんだ、信憑性は薄いけれど確たる証拠を見てしまったんだ。もう知らないふりは出来ない。今まで見ようとして見てこなかった一つ一つが今日繋がったんだ。携帯のメッセージ、女の子から逢瀬を匂わせるようなものが来ていたのを、はからずも何度か見つけてしまっていたのにまだ知らないふりが出来るのか。それも証拠じゃなかったから何も言わなかったけれど。

どっちにしろ、もう俺は、今のローの事を信じることが出来ない。








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