Fxxk you bitch!!!!
me




最近はよく、ベッドが広いと感じるようになった。

否、ベッドなんて尤もらしい言葉を使ったが俺が寝ているのは大学に通うにあたってショッピングモールで買った安物の布団セットで、マットレスもなにもない。元々一人暮らしの身、一人で眠るために買った布団が広いだなんてバカを言え、と思うだろう。

しかしながら最近までこの小さな布団で二人身を寄せ合って眠っていたことを覚えている身体は、どうやらこんなシングルの布団でも物足りなさを感じてしまうようだ。布団のすぐ横、万年床の布団を除いたスペースを有効に使おうとギリギリまで寄せられた壁に背中が当たっていて思わず苦笑する。確かに眠った時は真ん中に横たわっていた筈なのに、目覚めた時にはまるでもう一人分寝る場所を確保しているように俺の身体は布団の端に追いやられているのだ。それがもう二週間も続いていて、流石に未練がましいだろうとシワの寄ったシーツを撫でて苦笑した。

こんな事が誰かにバレたら笑われるか呆れられるか知れたものではない。男のくせにねちっこい奴だ、なんて言われたらぐうの音も出ないな。周りにはサバサバした性格の奴も多いし、さっさと忘れろと言われるかもしれない。どうせ、相手も忘れているのだから、と。

今なお空いている布団のスペースを占領していたのは、俺の恋人だった。それなりにやる事もやった仲で、まぁ相手の気持ちは分からず終いだったが俺は大学を卒業しようと社会人になろうと添い遂げようと思っていた相手で、もうその相手以上の人間は見つからないと思っていた。そうして浅ましくはあるが、今もその気持ちは変わらずその人以上の恋人はこれから先見付からないだろうと思っている。馬鹿にも程があるだろう。相手にとって、俺は火遊びに過ぎなかったのだから。

お前の事、愛してたのに、なんて、思ったけれど口にすることは出来なかった。その人は俺から離れて行ったわけではなかったのだから。

元々、俺がその人に相応しくなかったんだろう。何度触れようと、幾ら愛そうと、その人は俺が繋ぎ止めておくには余りにも自由で、気高くて、美しかったのだから。下世話な話になるが、それでも行為の最中に俺に縋り付いてくるその両腕に満たされたような幸福感も、必要とされている安心感も、何処とない優越感も感じていた。それも今となっては図に乗っていたようで滑稽なのだが。

それどころか俺が恋人の座に居座っていたせいで随分と不自由をさせてしまったかもしれない。束縛なんてしていたつもりはなかったが、そもそも俺という存在そのものが、その人には重しのように感じられていたのかもしれない。うん、鬱陶しいとかウザいとか邪魔だとか、あったかもしれない。あったんだろう。

俺と付き合うまでは奔放だったようだし、元々本人も魅力を持て余す人だったし、引く手数多だっただけに驚きも少ない。やっぱりという落胆と、それから、着火剤程度の憤り。それくらいの感情に任せたら酷い失態を演じてその人との関係は終わりを迎えた。俺が終わらせたんだ。一番終わりを恐れていたのは、俺なのに。それでももう限界だった。やっぱり俺では足りなかったんだ。

そもそも恋人が離れていってしまったことに対して「やっぱり」なんて思った時点で恋人失格だったのだろう。それどころか男としても人としても自分に自信が持てない粗末な人間だったに違いない。前まで自分でも笑えるほど直向きにその人を愛していたし、大丈夫だと、自分は恋人に足る存在だと思うことが出来ていた。それでも打ち砕かれてしまった淡い思い込みは、今は暫く恋愛から身を引くに調度良い精神状態にしてくれている。だからまだ続いている感情に気付かないふりをして、もう何食わぬ顔でこの言葉を言うまでに至った。

俺は、トラファルガー・ローを、愛していた。










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