Fxxk you bitch!!!!
you're




夢は、見なかった。ローは俺の部屋に泊まると、いつもおれの腕枕で眠りにつく。それは布団の中でひとしきり温め合った後でも、しこたま酒を呑んでご機嫌になって眠る時でも一緒だった。

瞼が重くて頭が痛い。昨日は嫌な胸騒ぎの余韻のようなものが体に残っていていつまでも眠ることが出来なかった。寝不足かも知れない。開けっ放しで寝てしまったらしいカーテンから零れた光が目を焼いて、一回薄く開いた目を閉じた。背中が壁にピッタリとついている。元々死んだように眠るやつだと言われていたが、いつしか朝起きたらこの寝相になっているのがほとんどだった。昨日は勿論布団に入った時は一人だったので真ん中で寝た筈なのに。

上半身を起こして窓に背中を向ける。壁に側頭部をつけて、日光で温まった布団を手探りで撫でて、それから目を開けた。

そうだった、いないのか。

「…」

腹が減った。何度か壁に頭を打ち付けて、充電がとっくに終わっているらしい携帯を片手にゆっくりと立ち上がる。そういえば隣は空き部屋らしい。壁の薄い物件だから助かっている。自分の生活音が周りに迷惑をかけるのはどこか忍びない気もするし。ペタペタと裸足で部屋を歩く。

朝飯は何にしよう。一人だから何でもいいか。欠伸をして小さい冷蔵庫の一番下の段、冷凍庫の引き出しを開ける。真っ先に目に入ったのはいつ入れたかも覚えていない食パンだった。こんなものがあったのか、なんて手に取ってそれを眺めてみる。その拍子に目に入った賞味期限はとっくの昔に過ぎていた。

そうだよなあ。ローがいたら食パンなんて食べないし、いつだったか余ったものを冷凍庫に入れた気がする。まあでも冷凍なら多少賞味期限が過ぎていても平気だと田舎の母親が言っていた気がしないでもない。

適当にそのパンをトースターに突っ込んでタイマーを回す。トーストにつけるものなんて家にあったかどうか怪しいが、いざとなったらもう塩でも掛けて食えばいい。いいんだ腹が膨れれば、注意する奴も、もういないんだから。

「栄養が、偏るぞ…モトイ」

こんな時に言われるとしたらこんなセリフだろうか。小さな声でひとりごちる。野菜を食えだとか何品目以上だとか、本当はお前だってそこまで厳しくやってなかったろうに、俺にばっかり注意して。

俺のこと、大切だったのかなあ。それとも、単に見てられなかっただけなのかなあ。

何だこの女々しい思考は。今に始まった事じゃないが、自分の薄ら寒さに震えが来そうだ。もう終わったことは終わったこと、俺が終わらせたことなんだから。望んで別れようって言ったんだから、ほら、俺達、互いのどこに追い縋る理由があるっていうんだ。

ローはおれなんかよりいくらでも上の相手を見つけることが出来るだろう。俺の上位互換なんて世の中にはいて捨てるほどいるし、文系の枠にとらわれなければそれこそ医学部にはわんさか高スペックの奴がいるだろう。男だってことに拘らなければあいつのことだから、よりどりみどりなはず。いやだって元々あいつ恋愛対象男だったのかよ知らないけど。

あいつは、ローは完璧超人だ。医者を目指せる水準の学力に、初対面だった学部の違う俺に話し掛けて友人になれるコミュニケーション能力、芸術作品みたいな整った顔にお手本のような体型。たまにある隙だってそれは相手を引き込んで離さない長所に転じる。存在が卑怯とも言えるローは、俺と付き合うまではあらゆる女性から引く手数多だったと聞いた。いや残念ながら俺と付き合ってからも引く手数多だった訳だけど。女の浮気は抱いてみれば分かるというが男の浮気は証拠がないと分からん。

かと言って俺だってまだまだ人生これからだ。なんかうまいこと可愛い彼女を見付けられるかもしれない。田舎にいた頃はちょっと頭の弱い可愛い女の子がタイプだったし。そんなの都会に来れば山程いるだろう。町を歩いたらそんな子と一日に何人すれ違えるだろうか。

そんな考えに、思わず苦笑する。新しく出来るかもしれない彼女に思いを馳せた訳じゃない。頭に浮かんでしまった、簡単な疑問。

それじゃなんで俺達、付き合ってたんだよ。

引きつり笑いを浮かべる口元とは裏腹に、寝起きの目元はまだ涙腺が緩い。はは、と口から笑いが漏れたのを抑えるように、ぺしり、と左手で両目を覆った。ローには、俺じゃなきゃいけない意味なんてあったのか?ああ、こうなる前に、なんなら付き合う前に気付けたらよかったのに。







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