短編
「名前!おめえ何ルフィ先輩と話してただクラァ!」

バルトロメオがおれの所にやって来るのは、大抵そんな用事だ。やれおれがルフィにお菓子分け与えてただとか、やれおれがゾロと談笑してただとか、やれおれがナミに飲み物奢ってただとか、そんなことで僻んでいちいちおれのところにやってくる。

「何って、サボに渡す参考書をルフィが取りに来たんだよ」

「ささささサボ!?るるるるルフィ!?おめ、この、先輩若しくは様をつけるだよ敬称を!!」

おおすげえ、こいつの口から敬称なんて言葉が出てくるとは思わなんだ。そんなような事を思いながら肩を竦める。やれやれ、という感じだ。
サボとは小さい頃からの幼なじみで、ルフィとエースはそのつながりから仲がいい。そしてルフィつながりで友達も紹介されているのでよく遊ぶしと言った感じだ。おれからしてみれば彼らはとても気のいい仲間たちである。

「だって、今さらそんなこと言う仲じゃないしい」

少々の面倒臭さを感じながら頭を掻く。でもまあ、例えばこいつがルフィに敬称なんかいらないと言われたら白目剥きながら呼び捨てするんだろう。俺だってそんなもんだ、白目は剥いてないけど。
バルトロメオはそんな態度の俺にきいっ、と引きちぎらんばかりにハンカチを噛み締める。馬鹿らしい仕草である。

「おめえそんな不遜な態度さ取って罰が当たるべ!!あんのお方達はなあ!!あのお方達は…ううっ…」

あぁ、こいつ馬鹿だ、と少しだけ苛々しながら突然泣き出したバルトロメオを横目に見る。ルフィ達が関わると本当にこいつは面倒だ。前世から麦わらの一味が大好きで、その執着から今生でも記憶を失わずに生まれてこれたらしい。俺が見る限り前世で見知った奴は軒並み学校やその周辺に勢揃いしているが、記憶がある奴ない奴はまちまちで人によりけり、と言った感じだ。

「なに、俺が親しくルフィらと話してたらお前はおれに不遜な態度取っていいわけ?」

「おらがおめえにこんなことさ言うのは不遜じゃねえべ!敬うべき方を敬わねえのが不遜だって言ってんだ!」

「じゃあなんでお前はおれを敬わないの」

「おめえは敬うほどの人間じゃねえ!」

「ふうん」

あぁあ、ダメだこいつ、と話を切り上げて視線を外す。こういうのには俺が何を言っても聞いてもらえないという事もう分かりきっている。全く馬鹿である。前世ではあんなに名前先輩名前先輩と構い倒してきたのに。頭打って麦わら一味の記憶でも飛ばしてしまえ、と悪態を吐きたかった。

「おまえって、本当に鳥頭のバカ」

「バカとはなんだべバカとは!おめえに言われる筋合いなんかどっこにもねえ!」

「その切り返しもバカ」

「なして!」

チイッ、と大きめに舌打ちを打ってバルトロメオを睨みつける。この野郎はおれの事だけ忘れやがったのだ。前世で、あんなに、おれに擦り寄って美辞麗句並べ連ねておいて、おらはルフィ先輩の次にあんたを尊敬してんだあぁでも順位をつけるだなんておこがましいべ!とのたまっておいて。
その時に別にこいつのことを可愛いなんて思ってはいない。断じて思っていないしサインもあげてないし頭も撫でてない。してないのだ、こいつが覚えてないのならしてないのと一緒だ。だって、欠片も覚えていないのだろう。綺麗さっぱり生まれ変わってくる過程で忘れたのだろう。
この、麦わら海賊団参謀のおれを。

「バーカ」

「だからなしてだべ!」

やっぱり、その髪型はルフィが言うとおりのトサカだったようだ。





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