短編
「ごめんな〜い!十二位は?うさぎ座の貴方!落とし物に気を付けて!」

本日は晴れ、星座占いは最下位。っていうか昨日は干支占いで最下位だったし一昨日は好きな色選ぶ占いで最下位だったんだけど、俺は見る占い全部ドンケツになる呪いにでもかかっているのだろうか。とはいえ、あーなんかそれも納得だなっていう出来事もちゃんと現在進行系である。

「ネイバーが出現しました!落ち着いて避難して!」

バムスターだ。商店街に現れたゲートを視認して、身体がすぐに染み付いた避難誘導を開始する。最近の不安定なゲート出現状況からして、どこにネイバーが現れてもおかしくない予兆はあったので対処法を頭に入れておいてよかった。けれど、なぜ非番の俺がいる場所を狙ったように出てくるのか。悲鳴を上げながら走っていく人々が大方逃げ延びたのを確認して、俺はそっと自分の尻ポケットに商売道具を探した。

「…」

ないんだけど。俺のトリガーないんだけど。嘘でしょないんだけど。いつも尻ポケットに入れてる俺のトリガーないんだけど。マジで本当に欠片も入ってないんだけどいや欠片でも困るんだけど。逆の尻ポケットにもないんだけど。全身のあらゆるポケット探してるけどどこにもないんだけど。トリガーがなければ俺はちょっと運動神経がいいだけのイケメンなんですけど。一瞬頭が真っ白になって、ひとつだけぽん、と文字が取り残される。ごめんなさ〜い!十二位は?うさぎ座の貴方!

「落とし物に気を付けてェ!?」

落とし物ってこの場合だとトリガーに留まらず命までカウントされちゃいそうなんだよな。あー!と頭を抱えながら後ろに大きく飛ぶ。やはり生身だから大した動きは出来ない。ずどん、と俺がいた場所にバムスターがふっ飛ばした肉屋の看板が突き刺さった。バムスターの意識は完全に俺に向いている。まぁ迅速な避難誘導で今の所犠牲者ゼロなんだから一旦そこは評価されていい。

本部の誰かに連絡、とスマホを取り出そうとしたところ、バムスターが建物を薙ぎ倒す。飛び散った瓦礫を一瞬手で受けようかと迷って、反応が遅れてしまった。あ、と思った時には、俺の頭と同じくらいのコンクリート片が、目前まで。

「捜し物!」

ぱん、と横っ面に何かが当たる。はっと我にかえってぐっと状態を後ろに逸らした。背中の筋がぴき、と嫌な音を立てた気がしないでもないが、そのままごろりと転がって這うような格好に持ち直す。俺の顔に当たって足元に落ちていたのは、見慣れたトリガーだった。飛んできた方向に立っていたのは、ひらりと手を振った、実力派エリート。

「それかな?」

「ウワーン!!じ、迅く〜ん!!」

に、と笑った友人かつ同い年の先輩に涙ちょちょ切れながらトリガーを起動する。展開したグラスホッパーを踏んで、縦回転しながらバムスターの顔を一刀に斬り伏せた。トリガーがあればこっちのもんである。ずしゃ、と崩れ落ちたネイバーの背中をとん、と蹴って、俺は迅くんに突進する勢いで抱きついた。

「ありがとう〜!!大好き!!マジ命の恩人!!」

どす、と腹に突き刺さる俺を受け止めながら、よしよしと背中を撫でる迅くん。見たところもう門も閉じたようだから生身に戻ると、にこやかに俺を見下ろした迅くんの目が一瞬遠くなった。

「…本当にな」

その憂いを帯びた声色に一瞬息が止まる。えっ、マジでそうなの?俺もしかして今日死ぬ感じだった?無言で迅くんの顔を見上げると、にこりと笑った迅くんが俺の髪をくしゃくしゃと撫で回した。





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