短編
ぐでん、とソファに横たわる太刀川を横目に、そこら辺に散らばっている漫画を巻数順にテーブルに積み上げた。太刀川隊作戦室。ここはあまりに物が多くて、来るたび何かしら見慣れないものがある。俺は清掃員じゃなくてエンジニアなんですけど。そう言おうとして口を噤む。太刀川の目が真っ直ぐに天井を見つめているのを見て、その理由を推し量った。

最上さんの置き土産の黒トリガー、通称風刃は、玉狛の迅の元へ渡った。渡ったというより迅が勝ち取ったと言う方が正しいのだろう。そもそも風刃を起動できず争奪戦に参加すら出来なかった事と、良きライバルである迅が特例でランク戦から手を引く事になって、まぁ太刀川も思う所があるんだろうな。

さて、と今度は棚の上に無造作に置いてあるゲームソフトを手に取る。以前は戦闘員として太刀川ともしのぎを削っていた俺は、エンジニアに転向する際、こいつにここまで惜しまれていただろうか、なんて考えるまでもない。トリオン量まあまあ、戦闘能力ふつう、戦闘センスそこそこな俺と比べられたら迅もたまったもんじゃないだろう。

ぱか、と開いたゲームソフトのパッケージは、表と中身でイラストが違っていた。ふと目を逸らしてそっとケースを閉じ直してから、太刀川が転がっているソファの背凭れに肘を置いて身を乗り出した。

「…太刀川」

「ん?」と僅かに視線を動かして俺を見上げた太刀川。その顔を見下ろして、ただの思いつきをそのまま口にする。

「俺がお前の黒トリガーになってやろっか?」

いつも通りの微笑みを蓄えていた太刀川の目が、ふと表情を取り落としてただ俺を見つめ返す。それを俺も、じっと観察した。

「そしたらお前も」

迅の黒トリガーと互角に渡り合える、もしくはそれを超えて。そんな言葉の先を太刀川に浴びせるのは憚られた。憚られたんじゃない、言えなかった。

「…んだよその顔、冗談だって」

へら、と笑ってわしゃわしゃと太刀川のゆるふわパーマを掻き回す。なんの抵抗もないから、あぁ、まずったな、と一人で勝手に気まずくなって。そういう時ほど人間口が回るもんだ。はは、と適当な笑みを重ねて、そっと太刀川の顔から視線を逸らす。

「いらねえよなぁ、俺が黒トリガーになったところできっと使えねぇだろうし、つうわけでこの話は無し」

はい、と手を一つ叩いて適当な片付けを再開する。菓子類を買いにいっている国近が戻ってくる頃に片付けを終わらせて、無駄だろうけれど「もう散らかすな」と念押ししなければ。そう思ってさっき見ないふりを決め込んだゲームのパッケージに手を伸ばすと、横からぬっと腕が伸びてくる。二本の腕が俺の腰に巻き付いて、どす、と脇腹に太刀川の頭突きがヒットした。いつの間に身体を起こしたのだろうか、なんて思いながら横っ腹に引っ付く太刀川の脳天を見下ろす。

「いる、絶対、お前は俺が貰う」

脇腹に埋もれた顔から、そんな篭った声が聞こえた。表情は見えない。俺は太刀川の頭に肘を乗せて、ぱかりとまた中身のちぐはぐなパッケージを開いた。

「なんだそれ、プロポーズみてぇだな」




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