短編
「…あれさ、俺へのあてつけ?」

駅までの道程、隣を歩く男が「いい性格してんね」と宣った。何の話だ、と彼の言う"あれ"を探して脳内で今日の出来事を巻きもどす。心当たり、と言えるものが、先程まで連立って参加していた所謂合コンの中にひとつだけあった。

「なぁんで…」

そう半分笑いながら彼、萩原に尋ねる。その横顔に視線を向けると思ったより深刻な顔をしていて、思わず俺も声のトーンを下げた。

「…そんな訳ないだろ」

合コンなのだから恋愛観について話したり、今までの経験談とかそんな話が出るのは当然の事である。今回も例に漏れず好きなタイプの話になって、ああでもないこうでもないと語っている参加者の話を聞いていた。そんな俺を目敏く発見した女の子に話を振られて、少し考えてから、答える。

「一途な子、かなぁ」

そう口走った瞬間に、テーブルの対角線上に座っていた萩原と不意に視線がぶつかった。ぶつかってしまった。それまで人当たりの良さそうな笑顔を浮かべていた萩原が一瞬唇を引き結んで顔を逸した瞬間に、あ、やってしまった、なんて思った。その時の傷ついたような表情がちらついて、さっきから萩原の顔をまともに見られないでいる。

「人に告白しといて合コンなんて参加しやがって、って事かと思って」

おどけたようにそう笑った萩原が、俺より長い足で一歩先に躍り出る。駅はすぐそこだ。こいつがこの議論に何らかの答えを欲しがっているのなら、もう少しゆっくり歩くだろうな、と思った。

数日前の宅飲み、酒の勢いで萩原の口からまろびでたような「好きだ」という言葉も、確か今と同じように取り繕ったこの男に煙に巻かれてしまった。同席していた松田に後ほど「萩、多分本気だと思うぜ」と補足されなければ、俺だってそのまま流してしまっていただろう。今だって、それに関しては問い詰められないでいるけれど。

「いや、俺も告白されといて合コン来てるし…」

困り果ててフォローにもならない返しをする。「そりゃそうだ」と笑い飛ばした萩原の頭が段々と俯いて、襟足の髪が隠した項が少しだけ覗いた。

「…俺、お前が思ってるより多分…ほんとはずうっと、一途だと思うんだけど、駄目かなぁ…」

少しだけ震えた声がそう言った。合コンなんて行っていようがいまいが、萩原が一途な事くらい俺だって知っている。せめて顔を見せて、誤魔化さないでそう言ってくれたらいいのに、と思った。何故俺が好きなタイプを問われて萩原に視線を向けてしまったかを考えれば、駄目かどうかなんて自ずと答えが出るだろうに。


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